モノづくりの現場探求 第二十五回

モノづくりにおけるハラスメント 2

先回は、日本の製造業では管理職が上意下達で部下に上から目線でモノを言うことに慣れているので、ハラスメントを起こしやすいと述べました。

会社で起きる多くのハラスメントを調べてみると、圧倒的に上司から部下に対するものが多いことが分かります。最近になって突然ハラスメントが起き始めたのではなく、以前はそれが表に出なかったというだけで、当時から問題は起きていたでしょう。当時の社会環境下では被害者が周囲にアピールできず我慢していたのだと思います。人はすべて平等と言う考え方での変化であり、ハラスメントという言葉が市民権を得たのは良いことだと思います。しかしハラスメントになることを過度に恐れて、挑戦的でレベルの高い指導ができなくなる事は避けなければなりません。いわゆる熱血教師がいなくなっては困るのです。

私は武道を習っておりますが、そこでは本当に高いレベルに到達しようとする弟子に対して、師匠は知らない人が見たら完全にパワハラと思われてしまうような非常に厳しい指導をしています。しかし弟子は喜んで師匠の厳しい叱責を受け止めています。ここで重要なのは、両者の目指す方向が一致していて、信頼関係があることです。師匠は弟子の技術の習得では厳しく叱るが、弟子自身の人格は尊重します。「お前のこの技はここがダメだ」とは言いますが、「お前は何をやってもダメだ」「親の顔が見たい」は決してありません。どつき漫才の舞台上で、どつき合っている2人の漫才師がケンカになるのではと心配する人はいません。何故かと言うと観客は2人の関係を理解し予想する結論に向かっていることを知っているからです。上司と部下の話し合いがどんなに激しくとも、武道や漫才のようであればいいのです。

それを実行する方法ですが、私は2つのことを考えています。

一つ目は、上司たちに「仕事の教え方」を勉強してもらうことです。私はよく指導会や講演会の場で、「仕事の教え方を教わったことがある人はいますか?」と質問しますが、教わったことがある方はほんのわずかでした。ほとんどの人は正しい仕事の教え方を知らないのです。上司からの教育が不十分なため、部下は仕事が上達しないので結果を出せず、その結果、上司はイライラして怒りが爆発してハラスメントになってしまうということは有り得ます。仕事の教え方は山本五十六海軍大将の「やって見せて、言って聞かせてさせてみて、褒めてやらねば人は動かじ」 です。部下の仕事の覚えが遅いのは上司の教え方が悪いからかもしれません。このやり方でしっかりと上司が部下に仕事を教えることができれば、コミュニケーションのレベルも上がり、ハラスメントの心配は減るでしょう。

二つ目は、上司は「叱る」と「怒る」の違いをはっきりと理解して、指導の際に叱ることはあっても決して怒らないということです。理性を失って怒ってしまい、ただ相手を罵倒している上司を見ることがあります。いくら部下のためと思っていても、怒ってしまうと全く無意味な感情的な行動になってしまいます。一方、同じことを言うにしても、冷静に理性をもって相手を更に良くしてあげるという気持ちが通じる言い方をすれば、部下はゆとりをもって聞くので理解が進み成果を出せるでしょう。松下電器産業(現パナソニック)創業者の松下幸之助氏や、つい先日お亡くなりになった京セラ創業者の稲盛和夫氏は、叱る時は周りの人も震え上がるくらい強く叱ったが、叱られた人がそこから大きな気付きを得て感謝をするということが多々あったとあります。怒らず上手に叱ったということですね。それができるためには、部下の指導をするときに常に自分を客観視して、自分のやっていることが目的に合っているか?怒っていないか?を確認することです。「アンガーマネジメント」という言葉も最近よく聞かれます。本もたくさん出ていますし、YouTubeにはテレビでもおなじみの評論家の勝間和代さん、元芸人で現在有名YouTuberの中田敦彦さんを始めたくさんの人が分かり易い説明の動画をアップしています。これを一回見てみるのもいいかと思います。

相手の立場に立った分かり易い説明できちんと仕事を教えることや、怒らないでしっかり叱るといった感情のコントロールをすることができれば、ハラスメントになることは少ないでしょう。ハラスメントを勉強して、更に気持ちよく働ける環境を作りましょう。