モノづくりの現場探求 第七回

お金の使い方 ~消費?投資?それとも浪費?~

カイゼン活動にはいろいろな目的がありますが、そのうちの大きなひとつはお金を稼ぐことです。お金を稼ぐための使い方は3通りあります。消費、投資、浪費です。今回はモノづくりの現場でお金を上手に使って経営に貢献する方法について考えてみたいと思います。

アメリカでは小学校から、お金というものをどう考えてどう使うかについての授業があるそうです。貯蓄や運用について子供のころからしっかり勉強して、上手な使い方ができるように育てられるのです。一方、日本では学校でそういう勉強はしないし、一部ではお金の話をすることを避けるような傾向もあると思います。その結果、多くの日本の人は、お金についてはあまり知識も考えもなく、極端にいうと、「節約は美徳」という言葉が独り歩きして、どんな場合でもお金を使わないことが良いことであるといった傾向すらあるように思われます。特に日本の製造業の現場サイドでのお金の使い方にはそのような考え方があるように思う時があります。

具体的な例をあげれば、複数台ある設備のうちの1台が壊れても、まだ他のものが使えるから直さなくても良いと放置してしまう。ひどい場合はだんだんと調子の悪い機械が増えていき生産に支障をきたすレベルになっても、調子の悪い機械をだましだまし使って仕事を続けるといったことが現場においてしばしば見られます。本来なら一台でも故障した時点で修理をするべきですが、それを後回しにしてしまう。
あるいは設備のレイアウトが変わったが、天井の蛍光灯の配置がそのままなので、作業に支障が出るくらい薄暗いにもかかわらず、それを直さず苦労して仕事をしているといったことがとても多いのです。

自動車部品を作っているT社においては社長が全従業員に対して、この変化の時代を先取りして変化を起こしたいので、必要なものは買うからどんどん言ってきなさいと伝えておられます。実際に現場を見てみると、古い設備を新しい設備に変更したり改造すれば、生産性も品質も上がり短い期間で回収できて利益に結びつくと分かる工程は多いのです。しかしそういうことが分かっていても、お金がかかるのでという理由でそれを提案する現場が出てこないと社長は嘆いておられました。

日本人は、貯蓄はするがお金を投資や運用することを知らないとよく言われていますが、これは勉強不足です。このままではいけないと思います。

最初に述べましたが、お金には、3通りの使い道があります。1つは消費、必要なものを必要なだけ買いムダをなくして上手に使うことが基本です。もう一つは投資。多少のリスクはあると思いますが、かけたお金以上のリターンを手に入れるというお金の使い方です。そして最後が浪費でお金をドブに捨てるような使い方です。これはたとえ1円であっても企業では許されません。しかしお金を使わないことによって、結局大きな問題が起きて、その後始末に大きなお金がかかるといったことがあるとすれば、それは大きな機会損失であり浪費と同じです。お金を使わないと決めつけるのではなく上手に使うということが必要です。

そして私は今の時代に必要なのは投資の考え方だと思います。まずはカイゼンによって、できる限りの効率追求をしますが、当然限界があります。その限界から先を投資でカバーすればリスクは低減し、効果も大きいものになるでしょう。世の中がインフレに転換しつつある今、付加価値の高い良いモノを作って売って大いに飛躍したいものです。

しかし製造の現場では、未だにお金を使わないことに重点を置いているように思えます。日本の製造業はお金の使い方にもっと知恵を使うべきです。日本カイゼンプロジェクトではそのような切り口でのカイゼンも進めて行きたいと考えます。