モノづくりの現場探求 第二回

適正在庫について 2 ~できない理由よりやる方法を考えよ!~

先回は緊急事態が続く中、材料在庫がないことが一番危険なので、材料をジャストインタイムで購入するのではなく、リスクを承知で少し早め多めに入手することも考える必要があると書きました。しかしこれまでやってきた方法を変えると、即座に別の問題点が現れます。例えば置き場所の問題です。買う量が増えたことによって当然ですが置き場所をはみ出ます。一時的には仕方がありませんが、そのままでいるわけにはいきません。しかし多くの工場はこれまでも置き場所が不足気味であったと思います。そこに新たにこの大きな変化が押し寄せてきたのです。ここはこれまで手付かずであった根本的なカイゼンをする覚悟を決める必要があります。これまでできていなかったということを諦める理由にしてはいけないのです。

絞り加工のA社が今回受注した商品はこれまでになく大きいもので、受注決定後に工場内の置き場所が全く足りないことに気付きました。外部倉庫を借りることも検討しましたが、倉庫賃貸費用などの追加費用で全く採算が合わなくなることが分かりました。今さら断ることはできず、A社は窮地におちいりました。そして自分たちで工場内に空きスペースを生み出す以外に利益を出す方法はないという判断に至りました。そこで社長は製造、技術、営業、管理、そして社長の全員参加のKZ法という整理整頓の実行を決断しました。工場は既にキツキツでKZ法を提案した私も果たしてそれだけの面積を生み出せるか少々心配をするくらいの状況でした。

まず工場のどこにどう新製品を置くと一番都合が良いかのレイアウトのアイディアを各部門から募集して最終案を3つに絞りました。そして作業の当日、皆で1つを選び、そのイメージを頭に置いた上で活動を開始しました。「いつか使うだろう」、とか「この場所は必要な時がある」とかのこれまでの考え方に固執する限り利益は出ません。それどころか大きな損が出るというとんでもない事態です。全員がそのような決死の(!?)覚悟を決めてひと月以内に使わないもの、あるいは問題があるものにカードを貼り、不要品、不急品、必要品、に分類し全員で要不要の判断を行い大量の不要品と不急品を排除し、その結果見事に望んだ場所が空きました。皆の参加で目標を共有化して社長が即断即決することによって、到底無理だと思われていた場所を作り上げることができたのです。

樹脂成型のB社では運搬容器が大きな面積を占めていることに着目して問題分析をしました。すると外見は同じ形をしているにもかかわらず中身の仕切りが違うなどで管理に大変な手間がかかっている容器や、今は使用量が減っていて余り気味といったものが数多くあることを発見しました。そこで皆で議論した結果、入れる製品種類が外から分かる番号を箱に付けたらどうかというアイデアが出ました。しかしそれは膨大な量の箱の全てに番号を付けることで、皆無理だと思いました。しかし工場長は将来を考えて今絶対やる必要があると決断し、全社員に説明をし、協力を要請しました。最も物量が多くて対応が大変なものから始めたところ、番号が付くだけでこれまで毎日箱の整理整頓で大変な思いをしていた人たちが楽に正確に短時間で仕事ができるようになり、皆が番号付けすることの意味を理解しカイゼン実行スピードが上がりました。そして使われていない箱が顕在化するようになり、廃却が着実に行われるようになり、大きな面積が空きました。

この2つの事例は経営トップの参画と決断が前提となっています。このような時期、担当者だけでできる改善では到底間に合わないことが多いと思いますが、この時期だからこそできる改善ともいえます。根本的な変革を行いましょう。