脱力・カイゼントーク 第41回

カイゼンの活性化 カイゼン実行

翌月、M社に伺うと、宿題となったカイゼンを全員が実行して下さっていました。それまであまりカイゼンがされていなかったとは思えない、良いカイゼンが多く、皆さんがN社長の前で堂々と発表されました。コンサルタントの私からの評価に加え、N社長からの暖かいお褒めの言葉を全員が受け、皆さんはとても嬉しそうでした。

それぞれの人が実行したカイゼンを皆で見て回り、最後に O部長のカイゼンを見ました。彼は事務所の自分の机上の書類箱のカイゼンを発表しました。書類箱に部員が決裁書類を上から重ねて入れるのですが、見られては困る書類を置くときがあるというので、ボール紙をA4の大きさに切り、紙製の取っ手を付けて蓋にしたというシンプルなカイゼンでした。カイゼンの指揮を取っている部長はどんなカイゼンをするかな…と思っていた現場の人たちは部長のカイゼンが意外にも普通であったので少し安心したようでした。私は、カイゼン活動が停滞していたこの会社にとってこれは良いことだと思いました。皆が部長に親近感を持てるからです。しかし部長は少し恥ずかしい思いもしたようでした。本当は現場で大きな成果を出すカイゼンをしたかったのですが、長年にわたり事務所で管理職の仕事をしていたため、現場感覚が薄れていたことに気付かされてしまったからです。

カイゼン組織の担当に任命されてから、O部長は管理職としてカイゼン提案制度のような管理を強化することで成果を出そうとしていました。その時はほとんど一日中事務所のパソコンの前で仕事をしており、現場にはほとんど足を運んでいなかったそうです。そんな状態なので、現場従業員がどんな仕事をしているのか、どんな困りごとがあるか、などはほとんど知らないままであり、現場従業員の方もO部長の顔を見ることはあまりなかったそうです。そんな状況では、部長だからといっていくらカイゼンの旗を振っても従業員は付いて来なかったでしょう。

ところが、このカイゼン発表会をきっかけにO部長はそのスタンスを180度転換し、率先して現場に入ってカイゼンをすることを始めました。現場にいることで、カイゼンの見方も今までは表面的であったのが具体的に分かるようになったので、的確な指示や感想を伝えられるようになり、コミュニケーションも取りやすくなりました。その結果、現場の人たちもいろいろな要望や説明をしてくれるようになり会話が弾み始めました。自分自身が現場で従業員とより身近に接することによってカイゼンがうまく行った際に一緒に喜びあったり、褒めたりする機会も増え、その結果、現場の人たちのモチベーションが高まり、社長が求める成果が出始めたということでした。

M社はかってのような活気あふれるカイゼン文化を取り戻しつつあり、N社長もこの変化を喜んで下さいました。管理は大切な仕事ですが、それだけでは組織は機能しません。やはりみんながコミュニケーションを取りながら生き生きと働けるチームであることが大切だということが分かる事例でした。