脱力・カイゼントーク 第37回

設計変更 工程カイゼン実行

次のカイゼン会でも私は前回同様、皆様に工程カイゼンの可能性についての質問を投げかけました。前回まで、工場一杯に設備や作業エリアが設置され、全く身動き取れないと思っていた職場に空きスペースが生まれ、カイゼン会参加者は期待と共にカイゼンの可能性に気付き始めました。そこで次に目を付けたのはショットブラスト工程でした。この工程は2種類の接着剤を使っていた時は必要でした。しかし、接着剤を変更したことによって表面処理が不要になる可能性があるのではないかと思い、技術部門の人に調べてもらいました。この問題提起をもとに研究を進めたところ、ショットブラスト工程の廃止もできることになりました。これにより、さらに工場内のスペースが空き、作業効率が向上するだけでなく、ショットブラストから出る廃棄物も減り環境への負担も軽減されました。

ここまでカイゼンが進むと設備の増設スペースは充分確保できたのですが、生産方法が以前と異なるため、どういった増設が必要なのかを皆で話しあう必要性が出てきました。ここでもう一度製造現場の人に集まってもらい工程を再度見直すこととなりました。今まで2工程に分けて接着剤を塗布し乾燥炉に入れるためのロット生産式であったのですがこの生産方式でなければ生産性はさらに上がるのではないかという結論になりました。

そこで、乾燥工程で製品が停滞するやり方を改め、空いたスペースにコンベアーを入れて、モノが流れ続けるライン生産方式に変更することとしました。これまでの生産方式では、一度に多くの製品を処理するための大きなスペースが必要でしたが、ライン生産方式に変更することでそれが不要になり、より柔軟で迅速な生産が可能になります。また、この変更により、生産リードタイムが大幅に短縮され、在庫管理も効率化されることが期待されました。加えて、品質面ではロットアウトすることがなくなり品質も上がります。J社にはそれまでライン生産の経験がなかったのですが、皆さんはその意味を理解し、実行を決断しました。その結果、接着工程の生産リードタイムは10分の1以下になり、必要な製品をより迅速にお客様に届けることができるようになり、停滞在庫も大幅に削減しました。これは、現場の実情を踏まえた上で、営業、技術、製造など様々な部門の知見を結集し、共に問題解決に取り組んだ結果です。

当初、私が呼ばれた目的は、場所を空けてそこに設備を追加して生産能力を上げることであったのですが、このカイゼンで工程をシンプルにしたことで設備増強を最小限に抑え目標とする生産能力を達成してしまいました。作業者も増やさず生産能力を約5割向上させることができました。

この一連のカイゼンは、生産能力を増やしただけでなく、作業環境の改善、品質向上、在庫削減など、多方面にわたる利益をもたらしました。さらに、社内の様々な部門が協力して課題に取り組んだことも、大きな成果の一つでした。この部門間協力の経験は、以後のJ社の成長において貴重な財産となりました。