脱力・カイゼントーク 第31回

親会社と子会社間のコミュニケーション不足の問題 カイゼン実行

社長の決定によりカイゼンがスタートすることになりました。親会社のC社と子会社のD社の両社が現状を正確に把握するために、両社の幹部が一緒にD社の現場で整理整頓を行いました。D社からの説明にあった通り、「過剰な部品在庫」がある一方で「部品不足で完成できない未完成品」がたくさんあることが分かっていたので、それらを一時的にラインの外に運び出したところ、現場は非常にスッキリして見違えるようになりました。

運び出す過程で、「これはなんだろう?」、「どうしてこの状況になったのか?」という疑問が両社の幹部の間で起き、「どうやって解決しよう?在庫の状況を両者で共有する必要がある」という意見が出てきました。これは私が期待していたことで、整理整頓活動でこのような気付きが起きることが多いのです。そしてこの気付きはその後のカイゼン活動をパワーアップしてくれます。

整理整頓をした結果、過剰な部品と未完成品以外にもいろいろなモノがあることが分かりました。C社の営業部門からの指示で作ったものの、仕様の変更や保留などなぜか出荷指示が来ないで放置されていた製品が少なからずありました。あるいはC社の調達部門から送られてきたものの用途が分からず放置されていた部品もありました。

問題となっている在庫の管理についてですが、D社で部品が足りなくなった場合、D社はC社に連絡し、C社の調達担当が発注して補充していましたが、逆に余った場合は特に問題と認識せず、連絡などをしないまま放置していたことが原因で過剰な部品在庫が発生していました。

部品不足による未完成品が多くできていた問題は、C社の営業部、調達部とD社の製造部間の情報交換の少なさが原因でした。注文数に変更があった場合、C社の営業部はD社に在庫がある前提で製造部に注文数の変更を直接連絡していました。その後、D社が在庫を調べて、もし不足している場合はC社の調達部に連絡をするという遠回しな情報伝達が、情報の遅れや間違いにつながり、機敏な対応ができず予定した部品の到着が遅れることも多くあり、生産遅れを起こしていました。

生産能力拡大の目的で立ち上げた子会社であるD社の工場が、過剰在庫や未完成品で既に手狭になっている状況を見たC社の社長はこの問題を重くとらえ、両社が問題を共有化し、協力し合ってカイゼンを実行して問題解決する必要があると判断しました。そこで、D社には工場内の部品をリスト化し部品の過不足を前もって分かるように情報共有する指示を出しました。また、C社側にも仕入れや発注方法の問題の原因追及をするために、D社に不要と思われる部品や製品を全て発注元のC社に戻すと決めました。実際に返送してみると、それまで見えていなかったD社の在庫の問題を担当者全員が見えたことから、問題の大きさが明らかになり、D社と問題意識の共有ができました。

一連の活動の結果、両社にはそれぞれカイゼンすべき点が多く見つかりました。C社はD社の現場状況を知らずに、自社の都合でロットサイズや発送日程を決めていたことを反省し、D社は余剰部品問題をC社に報告しなかったことを反省しました。両社にとっての最善の答を求めた結果、C社がD社の生産のために部品を発注することを止め、代わりにD社に調達部門を設置し、D社が自分で発注することに変えました。その結果、営業注文情報がD社の生産部と調達部に同時に送られるようになるなど、迅速な対応が可能になり、生産遅延の問題が解消されました。

このことがきっかけになり、それまでは別々に活動していた両社ですが、いろいろな局面で協力し合うようになり、仕事のやり取りなど常にベストの効率を生む活動をするようになり、子会社のD社を設立した当初の目的である大幅な増産が達成できました。

今回は、よそよそしい関係であった親会社と子会社が、子会社の生産現場に集合して一緒にカイゼン活動をしたことで協力関係が生まれ、大幅に生産能力を上げた事例でした。余談ですが、今回の問題は、物理的な現場や現物を共有せず、互いに直接のやり取りが少ない状況で仕事を進めることの難しさを示しています。これは既に広く受け入れられているリモートワークにも同様の問題点があると言ってよいでしょう。リモートワークの良い点はもちろんたくさんありますが、今回の事例のように、現場や現物に基づいた作業の重要性を見過ごすことで、伝わるべき情報が伝わらず誰も気づかなかったという大きな問題が起きることがあるでしょう。この点はリモートワークを進める上で考えるべき重要なポイントだと思っています。