脱力・カイゼントーク 第28回

整理整頓ができたことで現場が以前と較べて明らかにスッキリし、モノを探したり運搬経路がモノでふさがれたりといった問題は解決しました。これでようやくA社の本来のコンサルティングの依頼目的である品質向上のカイゼンを始められることになります。整理整頓により、生産性向上とまではいきませんが、生産性を低下させる大きな要因はなくなりました。しかしながら本来の性能的な不良は残ったままでした。

現場の人たちはコンサルタントが、どのように品質カイゼンを始めるのか興味津々のようでした。多分、特性要因図などのQC(クオリティー・コントロール)手法を使った分析から始めるのだろうと思っていたことでしょうが、私はまず皆さんと一緒に現場で作業を観察することから始めました。

問題がありそうな工程を幹部の皆さんと一緒に観察しました。私にとっては初めて見る作業ばかりでしたが、現場の皆さんも普段じっくり観察する機会はなかったようで、いろいろな発見がありました。

たくさんの発見があったのですが、気になったポイントは次の2点です。

① 作業の途中でノートに書いたメモを見て作業をする人がいる。
② 工場長の許にいろいろな人が頻繁に質問をしに来る。

何をしているのかな?と調べると、次のことが分かりました。

作業者がメモを見るのは、図面の公差などの数字が必ずしも正確でないときがあるので、作業者は経験知をノートにメモしており、それを使っていました。とは言え、作る製品はそれぞれ異なるためそのメモの数字も必ずしも使えるものではなく、最終的に検査で不合格になることが多く、その対応を工場長に尋ねていたのでした。

更に調べると、古い製品のほとんどが当時70歳の工場長のみが現場の機材と設計図を把握し作成していたため、設計図だけでなく作業標準書や品質工程図なども改訂がされておらず、作業者は不明な点を工場長に聞いて製品を作っていたのです。工場長は作業者からの部分的な質問に答えるので、いくら個々の答が正確であっても全体感が見えず、最終的に製品の品質にばらつきが出てしまうのでした。

それらの古い製品に対して、新しい製品は設計段階で新しい機材の正しい数値が確定されており、良品が生産されていました。そこで、一度作業を止めてでも設計部門と現場部門が話し合い、これらの古い設計の製品を新たに設計段階から見直しをする必要があることがわかりました。

また、一部の測定器材は老朽化が進んでおり、数値の安定に時間がかかったり、バラツキが大きかったりするものもあることが分かり、それらをリストアップし、設計だけでなく、品質にかかわるすべての基準の見直しをすることにしました。

作業者はこれらの品質に関わるさまざまな問題を不便だと感じていたようですが、昔からのことであったため、長い間、これが当たり前になっていました。

工場長が知識も技術的にも圧倒的に優れていたがゆえに、誰も疑問を持つことなくその他の人が頼り切ってしまい、却って品質が低下していたのです。品質を良くする最初のステップは品質を作る品質基準を見直すことでありました。

A社ではこの機会にこれらの古い製品の設計図から品質基準をすべて見直す決定をし、測定機材も見直しました。工場長の知識や技術を作業者にもわかるように標準化を目指し、新しい設計を担当していた設計者には古い製品の設計を工場長と連携して再作成し、作業者が独自に出していた公差のメモも全て確認した上で作業手順書、QC工程表、図面の公差も確立させました。