脱力・カイゼントーク 第27回

「カイゼンってどのように始めるのですか?」「私の会社ではまだカイゼンの準備ができていないので、何をご相談して良いかが分かりません」といったご相談やご質問をいただくことがあります。
今回は私の経験からどのようにカイゼンを始めるのか?どのようなことを相談すれば良いか?どのようなところからカイゼン点を探すのか?などについてお話ししてみたいと思います。もうカイゼンが当然のことのようにできてしまっている方は初心に帰ったつもりで読んでいただければと思います。

センサーを製造しているA社のB社長から品質改善指導の依頼がありました。品質が低下してクレームが増えていることと、その結果、生産が遅れ納期が守れないという深刻な問題を解決したいということでした。

早速、A社に伺い現場を拝見しました。第一印象は少し散らかってはいるが、わりとよく見る感じの生産現場というものでした。その後も工場を回りながら気づいたのは、この生産現場の状況は、私が来ることを知っていた方達が事前に片付けたため、表面的には普通に見えたのですが、よくよく見ると工具を探し回る様子や、とりあえず足元に部品を置き溜めしている、工程間を塞ぐものが乱雑に置いてあるなど、さまざまな問題点が見えてきました。

社長は私がすぐに品質カイゼンに取り組むだろうと思ったようですが、私にはその前にするべきことが明らかでした。それは散らかった職場の整理整頓です。散らかった現場の状態に手を付けず、スポット的に品質問題に手を付けても品質問題は解決せず、まずは基本から始める必要があると判断しました。

そのためには従業員の皆さんが自主的に片付けを行う文化を育てることが必要と思いました。私が社長に変わってトップダウンで片付けを指示すればすぐに対応してくれただろうし、それが一番手っ取り早いとは思いましたが、言われてやるレベルの活動では自発性が生まれず、何より継続できません。私は皆さんが秘めている力を活かしたいと思いました。

ここでの『生産現場の片付け』はゴールではなく、あくまでも始まりであり、カイゼンの基本を理解してもらうことにあります。「あれをしなさい、これもしなさい」と伝えるのではなく、一緒に現場をよくしていく人だと理解してもらう必要があり、言われたからするのでなく、「これを〇〇しても良いですか?」と自主的に動いてもらう必要があります。信頼関係のない状態で何かを伝えたり、聞いたりしてもあまり効果は期待できないのです。ですから私もこの片付けには積極的に参加します。「これは何ですか?まだ使うものですか?」といった質問もより多くの方にします。片付けが終わる頃には数名の方が質問をしてくれるようになります。

当然のことですが、私にカイゼンの知識があっても、A社のことは当日まで知らなかったので、現場の皆さんの知識に頼らざるを得ませんし、どのようなカイゼンが必要か聞き出していかなければなりません。そうであれば、お互いの間に壁がなく、自由に言葉を交わし合うことができることが大切だと私は考えます。

この日は驚いたことに4トントラックで2台分のゴミが出ました。そして早く多く作り過ぎた中間品や完成品はきちんと表示をして次回の生産に使えるようにして倉庫に移動しました。

バラバラに置かれていた部品などが棚の一ヵ所に集約され品名を表示したので誰でも分かり、探さなくなりました。必要な道具や部品を作業する場の近くに置けるようになったので、動作がコンパクトになり生産性向上の基本ができてきました。

棚に置いた物の品名をラベルに書いて貼った際に、「そんなものいちいち書かなくても分かります」と意見が出る場面がありました。これは実はカイゼンにおいてとても重要な意見です。「今日片付けたもの、移動したもの全ての場所を覚えていますか?このラベルは誰もがわかるようにするために書いたもので、担当者の方だけのために書いたものではありません。あるべき場所にないということは追加発注する必要があると認識するためでもありますし、片付けができていないという気づきにもなるのです。だからそれぞれが見つけやすい方法ができたらどんどんカイゼンして下さい」と私が説明すると、発言した方も納得してくれました。

この時点ではまだカイゼンではなく片付けなのかもしれませんが、A社の場合のカイゼンの第一歩はこのような形で良いスタートがきれたように私は感じました。

次回は、品質低下の原因探しについてお話しします。