脱力・カイゼントーク 第24回

最近、大手製造業(ダイハツ、沢井製薬など)で、品質偽装問題が発生しています。この問題は、本来行うべき検査をしないで、長年にわたり良品として出荷していたというものです。重要なのは、この問題が市場での不具合発生ではなく、内部通報でプロセス不備が発覚したことです。市場で不具合が発生したのであれば、即座に原因究明と対策が行われ、多くのカイゼンが実行されていたでしょう。しかし、今回はそうではなく品質保証の工程での不正であり、内部でのことなので発覚しないまま不正を実行する期間が長期化し、結果として一気に市場の信頼を失いました。

内部の人も、長年の慣行によって感覚が麻痺してしまい、「このくらいなら問題ない」と考えていた可能性があります。その結果、継続的な不正が大問題へと発展し、大きな事故は起きていないのにもかかわらず、もしかしたら会社が消滅するかもしれないというほどの事態を招いています。こうなってしまうと問題が顕在化してしまっていた方が、会社経営への影響はもっと軽くて済んだかもしれません。

「検査で出荷が遅れたら大変だ」、「これまでもこのやり方で問題は出ていない」といった心の動きがあったのではないかとネットのニュ-スなどで報道されていますが、これが事態を悪化させた一因ではあると思います。この問題は私たちコンサルタントにとっては取り上げにくい題材でもあります。親会社からの指示、やむを得ない事情なども分からないわけではないからです。しかしながら、カイゼンを指導する立場として私なりの見解を少しお話しさせていただきます。

このような事件を起こさないためには、企業はどうすればよいのでしょうか。品質パトロールは、実施されている作業のチェックに限られますが、実際には「何をやっていないか」や「何ができていないか(足りていないか)」を見つけることがさらに重要です。品質チェックの重要性を強調するだけでなく、「例えばこんなことをしてはいけない!」といった具体的な事例を出して、担当者に周知することが必要です。この場合は、性悪説に立つことも必要ですが、内部の組織では、お互いに状況の大変さを共有していることや上下関係があるので強く言えないことが多いでしょう。(ダイハツにはトヨタの言うことには絶対逆らえないという共通認識があったそうです)

品質と安全はまずルールを守ることから始まり、その上で必要に応じてルールを変更することが基本です。一方、コストと納期は過去の習慣にとらわれず、柔軟に変更を加えるべきです。これらの原則が、企業の持続的な成長と信頼の達成を支えます。

以前の日本サッカーの監督だったフランス人のトルシェは、「日本人は、夜中で車が一台も来ないと分かっている時でも赤信号を守るが、それはおかしい」と言いました。これは当時の日本で大いに議論された提言でしたが、品質管理においてはどんなことがあろうとルールを守ることが最も重要であり、自己判断は許されません。たとえ真夜中で車が一台も来なくても、赤信号であれば信号が変わるのを待つことが重要です。自己判断は一切許さないということを明言し、この原則を事例とともに教育するべきです。

品質や安全というものは事故が起きていないから良いといったものではありません。品質基準が無駄に高いような状況があれば基準を見直し、ルールを改定する。基準を満たせないような納期を設定しないという判断も重要です。そして、親会社は傘下のすべての企業への責任を持つことが重要であり、部品の製造を請け負う企業は責任を押し付けられない環境を作る模索もしていただければと願っています。