脱力・カイゼントーク 第22回

カイゼン会などの場では、多くの成果を上げたカイゼンが発表されますが、常にすべてが良いカイゼンというわけではありません。

時には、実行されたカイゼンに私が反対することもあります。例えば、最近の機械加工のA社のカイゼン会での出来事です。技術部のKさんが、一人当たりの設備持ち台数を増やし、生産性を上げるカイゼンを発表しました。材料ストッカーの容量を拡大し投入頻度を減らすことで、作業者1人で3台の設備を担当していたのを、4台に増やせたという内容でした。

しかし、1人で4台を受け持つとすべての設備を見渡せなくなることが分かり、設備停止を音で知らせるシステムが導入されました。この警報音は非常に大きく、現場で突然大きな音がして、初めて聞いた私は驚きました。そこで働いている人に質問すると、だいぶ慣れたけれど大きな音なので快適ではないという答が返って来ました。Kさんによると、これ以下だと聞こえない時があるので、この音量に設定したとのことでした。

私は生産性向上が目的でも、そこで働く人が不快を感じる環境を作ることは本来のカイゼンの精神に反すると考え、反対しました。

私がこのカイゼンに反対した理由は次の通りです。

① 一時的ならばさほど気にならない音量であっても、長期となれば耳障りであり、健康にも悪影響がある。技術部は、毎日生産現場で働く人の立場に立っていない。
② 生産性の向上が見込まれても、現場で働く人が犠牲になる要素があればそれは真のカイゼンとはいえない。今回のカイゼンはそれに当たる。
③ 生産性向上は重要だが、すべての関係者の意見を取り入れる必要がある。一方的な判断で投資をしては回収できないことがある。今回はその手順を怠っている。

せっかく成果が出たカイゼンに反対するのは、心苦しいことでした。しかしもし私が問題提起しなければ、技術部は、製造部の現場で起きている大変なことを知らずに生産性が上がる良いカイゼンをしたと思ってしまったことでしょう。毎日この場所で作業をする人の厳しい状況を理解せずに実行したのであれば、私はこのカイゼンの代償を技術部に伝えなければいけないと感じました。私が反対した理由は、生産性を上げるために現場で働く人が快適とまではいかなくとも不快になるのであれば、カイゼンとはいえないと思ったからです。

しかし、この話には後日談があります。そこで始まった話し合いから良い結果が生まれたのです。現場の担当者の方から、音がなくても、個々の設備に付いているパトライトをどこからも見える高い位置にセットし直せば、4台すべての状況把握ができるというアイデアが出たのです。その結果、大きな音の代わりに光を使う方法で担当者に問題発生情報が伝わるようになり、1人で4台の設備を問題なく管理できるようになったのです。そして、Kさんも最初から現場の方たちと相談しながら進めるべきであったということに気付き、仕事の進め方を変え始めました。

今回の事例は、技術部が製造部と連携せずにカイゼンを進めたことが問題を引き起こしたことを示しています。作業環境に問題が生じていたにもかかわらず、生産性向上という技術部の課題が達成できたため、製造部に起きていた問題に目が向きませんでした。カイゼンは短期的な利益だけでなく、長期的な視点と全員の参加が重要です。今回の事例のようなアプローチが、真に業務の効率化と働く人たちの快適さの両方に貢献するカイゼンをすることの大切さを示しています。

持続可能なカイゼンを目指し、改めて、現場にこのような問題がないかを確認してみましょう。