脱力・カイゼントーク 第17回

ゆるブラック企業

「ブラック企業」とは、2013年に話題になり、流行語大賞に入賞した言葉です。その後、働き方改革の推進もあり、過度な残業を減らすなどの取り組みが進んでいます。その一方で実質的なカイゼンをしないまま、受注を減らして残業時間削減を図ったり、あるいは、パワハラを恐れて若手の積極的な指導をしないなどで問題を回避しようとする企業もあります。その結果、仕事が緩くなりすぎて、若手社員が成長の機会を見出せず、将来に不安を感じる「ゆるブラック企業」と呼ばれる新たな問題も生まれています。

現在の製造業界の構造を考えると、私には一般的に中小製造業が短期間に「ホワイト企業」になることは難しいと思えます。その理由は中小製造業の多くが上位企業からの注文を受ける構造になっており、生産の平準化などが難しい場合が多いからです。例えば、仕事量が一定にならなければ、常に定時で仕事を終えることは難しいでしょう。だからといって、ブラック企業にさえならなければ問題がないというわけではなく、「ゆるブラック企業」になることも回避する必要があります。

自動車部品の機械加工・組み立てをしているK社では、ある時期、生産能力を大幅に超える量の注文を受けてしまい、そのままの体制では過剰な残業や休日出勤をせざるを得ない状況になっていました。納期を遅らせる検討もしましたが、税制改正による値上げ前の駆け込み需要であったため、もし出荷を遅らせると補助金を受けられず、補償しなければならない可能性がありました。そのため、納期を守ることは不可欠でした。

しかし、納期を守るために過度な労働を強制すれば、K社は「ブラック企業」となり、従業員の健康が損なわれ、場合によっては法的問題が生じる可能性もありました。そこで、K社では社長の決断で全従業員に参加してもらいこのピンチを乗り切るカイゼンを実行することにしました。

まずは全員で作業の様子を観察しました。すると仕事中にモノを探したり、何度も取りに行ったりの動作が多く見られました。そこで何よりも優先すべきは整理整頓であると判断し、全員で実行し、モノを探し回る時間を削減しました。ボトルネックであった塗装工程では、生産管理部が工程前に在庫を持つようにして、作業が滞らないようにしました。生産技術部は現場の要望を聞いて数多くの位置決め治具を制作し、調整作業を減少させました。そしてそれまでは空き箱の回収などはすべて製造部が行っていましたが、スタッフ部門が交代で応援する体制を作りました。

それらのカイゼンの結果、K社は「ブラック企業」になることなく、全注文を納期内にこなすことができました。更に、このカイゼンは通常時の生産を以前よりずっと楽にし、全員が助け合ったことでチームワークが生まれ、それ以降のカイゼンに対するモチベーション向上につながりました。

もしこのような全社一丸となったカイゼンを実行しなかったらば、K社は過酷な労働環境の「ブラック企業」になった可能性が高かったと思います。逆にブラックになることを恐れて注文を断っていた場合、会社は成長の機会を逃し、若手従業員が将来に不安を感じる「ゆるブラック企業」になる可能性がありました。全従業員の参加というこれまでのレベルを超えたカイゼンの実行により、生産性もモチベーションも上がり、従業員は会社の将来性を感じることができ、「ブラック化」や「ゆるブラック化」を防ぐことができました。

A社はこれから時間をかけて真のホワイト化に向かって更にカイゼンを行うことを決めました。今回手つかずであった従業員の福利厚生の向上などのためには、利益率の大幅向上といった根本的なカイゼンが必要であり、今回のカイゼンをきっかけに更なるステップアップを目指しています。

企業はカイゼンを怠ると「ブラック企業」だけでなく「ゆるブラック企業」にもなり得ます。企業の長期的な発展を考えるとカイゼン活動は不可欠であると断言できます。