「カイゼン発表会」は、カイゼン活動を活性化し、経営への貢献を促進する重要な手段です。この発表会は、カイゼンの成果を示す儀式に留まらず、経営者と現場の意見交換の場として、新しいアイデアを生み出す機会ともなります。私はN社におけるカイゼン発表会で、この重要性に気付きました。
N社は国内に4つの工場を持ち、毎年1回、本社に工場の代表が集まり、カイゼン発表会を行っています。数年前の発表会で、1つの工場が新しいカイゼンのアプローチを発表し、それまでにない成果を上げました。
その年の4つの工場(A、B、C、D)の発表スタイルを比較すると、A工場は製造部門だけでなく、工場長や技術、営業など他の部門とも連携し、総合的なカイゼン成果を発表しました。彼らは数字上の成果だけでなく、目標設定プロセス、困難を克服したエピソード、他の部門との協力、他の部門からの評価など、工場全体のカイゼンを示しました。一方、B、C、D工場はそれまで通りに製造部門の活動に焦点を当て、生産性や品質の向上に重点を置いた数値中心の成果を発表しました。
経営者からのコメントには、A工場とB、C、D工場に大きな違いが見られました。A工場に対しては将来の展望や協力の重要性について更なる発展を予感させる議論が行われましたが、B、C、D工場の発表にはカイゼン結果に基づく報告に対し、実行方法に関する質問やアドバイスが中心の発表でした。
その結果、A工場のみが社長賞を受賞しました。発表会後の役員会で、社長は次回の発表会では全工場がA工場のようなプレゼンテーションを行えるようになって欲しいと思い、その方法を考えようと提案しました。
A工場のプレゼンテーションのやり方を他の工場も取るように指示すればよいという意見が出ましたが、それではA工場の成果が正しく理解されず、形式的な参加部門数の増加になる可能性があるという反対意見もありました。そのため、各チームの状況を調査することにしました。
調査の結果、A工場以外のチームは上司からの指示に従ってプレゼン資料を作成し、これまでと同じアプローチを取っていたことが明らかになりました。一方、A工場は上司からの指示ではなく、自主的な動きによって新しいカイゼンを進めていました。工場の各部門が情報を共有し協力し合って成果を上げたことに自信を持ち、それを社長に知らせるために発表会を活用したのです。
社長はB、C、D工場に対して、トップダウンの命令ではなく、自主的なアプローチを採用するよう提案しました。彼は、トップダウンの命令では必ずしも目標が達成されないことを理解し、ボトムアップのアプローチが本当の成果をもたらすと考え、それぞれの工場メンバーに自身の期待を伝えました。
その結果、B、C、D工場では、発表したチームメンバーが中心となって反省会を開きました。多くのメンバーから、これからのカイゼンをA工場のような全体最適のやり方に変えたいという意見が出ました。実際には少しずつですが既に全体最適の取り組みが始まっており、それらを更に活用していくという判断が出るのに時間はかからず、カイゼン方法自体のカイゼンが始まりました。翌年のカイゼン発表会では、全工場が部門間の協力を取り入れ、成果が向上したプレゼンテーションが行われました。私はこの自発的な動きに感銘を受けました。ボトムアップのアプローチが真の成果をもたらすと確信しているからです。
カイゼン発表会は単なる結果報告の場ではなく、将来のカイゼンに向けた議論の場として有効に活用されるべきです。カイゼン発表会を、活動を評価するP-D-C-AサイクルのC(Check)の場としてだけではなく、次のカイゼンテーマを探すP(Plan)の場として活用し、カイゼン活動を更に活性化いたしましょう。