脱力・カイゼントーク 第10回

板金をしているA社の印刷職場での出来事です。作業カイゼンやレイアウトカイゼンが順調に進み生産性向上目標を早期に達成したので、チームメンバーは次のカイゼンテーマを検討していました。すると、洗浄工程を担当している人たちから、現行の洗浄液にはシンナーが使われていて中毒性の恐れがあるのでカイゼンして欲しいという声があがりました。幸いにも大きな問題にはなってはいないものの、潜在的な安全性の問題があることが分かりました。

市販の洗浄液には、シンナーを使っていない製品があるのですが、価格が現在使っている洗浄液の3倍であると報告されました。チームメンバーはコストを下げることがカイゼンの前提と思っていたので、当面は洗浄液の変更を見送ることにしました。しかしこの考えは「安全第一」と言いながら、「コスト」優先の判断が現場にはあることになります。事故が発生した場合の「再発防止」は即座に実行されますが、事前に事故を防ぐ「未然防止」は必ずしも問題が起きるとは限らずそこまでやらなくてもいいのではないか…という気持ちも働くので、カイゼンの優先度が低くなりがちです。しかし会社の持続可能性を考えると未然防止対策の重要性は非常に高いのです。

私はこの洗浄液の問題を先送りせずに直ちに実行するべきだと考えました。この機会にメンバーの皆さんに安全第一の理念と未然防止の重要性を理解してもらいたいと思ったからです。そこで「これは私たちにとって貴重な機会です。試しに新しい洗浄液を使ってみましょう!まずサンプルを試してみて結果を次回のカイゼン会で報告して下さい」とお願いしました。

数日後、現場リーダーから電話がありました。新しい洗浄液を使用したところ、作業を担当していた女性従業員の方たちがシンナーを吸うおそれがなくなった上に、臭いが消えて環境が良くなりとても喜んでくれました。彼女たちの喜びようを見たら、洗浄液を新しいモノに変えないわけにはいきませんとのことでした。現場リーダーの声の調子も嬉しそうで、私はこのカイゼンは成功したと思いました。

この話には後日談があります。次のカイゼンテーマとして「洗浄工程のコストダウン」が決まり、皆でアイデア出しをしたそうです。すると洗浄容器の形や希釈濃度の検討、洗浄方法の変更などの具体的なアイデアが出て実行したところ、使用量が3分の1になり材料のコストアップ問題を解決し、さらにはやくきれいに洗浄することができるようになったとのことでした。そして実際に作業をしている従業員の方々から、これまでずっと無理だと思って諦めていたことがカイゼンで実現したことがとても嬉しかったという声が聞かれ、未然防止の観点からのカイゼンが支持されたと確信しました。安全という切り口で着手したカイゼンでしたが結果的に快適な環境も実現できました。これからは製造現場の環境を良くして行かないと新しい人は来てくれません。未然防止のカイゼンはこれからますます価値が高まると考えています。