新しいモノづくりの考え方 第20回

これからの日本式デジタル化⑲

これまで7つのムダのうちの5つのムダについて、デジタル化するとどうなるかを考えました。先回は、加工そのもののムダは営業見積との比較によるロスの排除、在庫のムダではバーコードなどの導入でより正確性を高めて更にムダを取るというデジタルならではの考えをご紹介しました。今回は最後の2つの動作のムダと不良をつくるムダのパワーアップについてお話しいたします。

6.動作のムダ 動作のムダとは一連の動作の中で、付加価値が付かない動作をいいます。良い動作とは動きのほとんどが付加価値に結びつき、少ない動きで良い仕事ができる動作です。その良い動作をしっかりと担当者に伝えることができれば、能率も品質も良い結果になるのですが、必ずしもしっかりと伝えきれていないことが多いようです。その理由はこれまでの動作の教え方にあったと思います。

これまで仕事の基準は作業標準書であり紙ベースでした。紙ベースの情報には限界があります。動作を正確に文章で表現するのはとても難しく、その文章を読んで実際の動作を再現するのは更に難しいといえます。作業手順程度の記述であれば文章でも十分ですが、カンコツの習得が必要な動作のレベルを文章にして、それを理解して再現するとなるとかなり無理があると思います。写真があったとしても、実際には動くものを停止した写真で理解するのは明らかに難しいことです。

そこで動画を用いて、動作を言葉にしないでそのまま見られる作業標準動画を作ることをお勧めしています。スマホやタブレットのような身近な機材を活用して、作業標準動画を作り、教育訓練に使うのです。実際に作業を行っている人に動作の説明をしてもらいながら撮影すれば、時間をかけずに完成できます。完璧である必要は全くありません。正しい作業が分かればそれでいいのです。まずは動画を撮影するところをやってみましょう。今の動画はデジタルデータとして簡単に送れるので、他工場と共有することも可能です。作業標準動画を見て自分でやってみてある程度できるようになったところで、今度は自分の作業を撮ってみて作業標準と比較するとカイゼン点が分かります。そしてこの一連の作業にはほとんど時間がかかりません。普通に作業していてそれを撮るだけです。自分の動作を自分で見るということはほとんどないのですが、動画で客観的に見てみるとカイゼンできるところが非常によく見えるものです。この機会にこの動画の機能をフルに活用して動作のムダを取りましょう。

7.不良を作るムダ 私は以前、経団連主催の洋上研修講師をしていた時に名誉団長であった㈱小松製作所の坂根正弘会長から「柿内君、君はボルトが外れる瞬間を見たことがあるかい?」と聞かれたことがあります。私は「ありません!」と即答したことを覚えています。不良が発生する瞬間を見ることができたら対応は簡単だが、見ることができない不良は推測でしか原因追及ができない、ということを強調されたお話しでした。そうだと思います、不良対策は発生のタイミングで不良を発見できれば発生状況や原因が分かるので対応し易いのですが、これまで発生情報は不良発生後に集計された現場日報に頼らざるを得ず、情報が届くのが遅く内容も大まかな不良分類と合計数程度で十分な分析ができないことが多々ありました。どのラインのどの作業者がどのタイミングでどのように不良を作ったかといった情報は取れませんでした。しかしデジタル化してタブレットなどを使って記録を取るようになると、不良発見の都度ボタンを押すのでタイミングや内容などのすべての記録が残り、誰がいつどこで何をどうといったかなり細かく実際の発生状況をほぼリアルタイムで把握することができます。また過去の発生や対応状況の詳細との比較が簡単にできるので、不良発生原因の追究を詳しく実行でき品質対策レベルが向上します。ボルトが外れる瞬間までは見えませんが、デジタル化によってかなりその瞬間に近づいていると思います。

3回にわたって、もしデジタル化したらどうなるかということで何十年も前から私たちがカイゼンしてきた「7つのムダ」を取り上げました。これだけ長い期間カイゼンをしてきたのだから、そろそろ「やりつくした感」があってもおかしくないテーマです。しかし改めてデジタル化を前提に7つのムダの見方を検討すると、見逃していたアナログ環境での限界が驚くほど見つかりました。実は私自身、この課題は長年指導する際に悩んでいたことでした。デジタル化することで、一気にこれまでの限界を突破できると思います。みんなでデジタル化カイゼンをスピードアップして更に進めましょう!