新しいモノづくりの考え方 第15回

これからの日本式デジタル化⑭

私がDXという文字をデラックスとだけではなくデジタルトランスフォーメーションとも読むということを知ったのは昨年の今頃でした。友人と雑談をしていた時に彼が言った「これからはディーエックス化の時代だ」の言葉の意味が分からず質問した時が初めてでした。一年前のことですから、私にとってDXという言葉はまだ非常に新しい言葉です。

しかしこのDXという言葉はあっという間に広がり、いろいろなところで目や耳にするようになりました。日本語に訳すと「デジタル変革」となるのですが、横文字なのでまだちょっとピンと来ていません。経産省のDX推進ガイドラインには次のような定義が載っていますが、これを読んでもまだしっくりきません。

「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズをもとに、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。」

もしDXと対応する言葉としてAX(アナログトランスフォーメーション)という言葉があったとしてみましょう。これはアナログ変革という意味になります。少し前のアナログの時代でも常に変革は必要でしたから、経営者や管理者の皆さんはカイゼンを含めていろいろな変革を考え実行してこられたことでしょう。

AXの時代でも、会社を強くするために皆さんはいろいろなことを考えて実行しました。モノづくりでいうと、生産性や品質を上げるために、設備の稼働率を調べてボトルネックを把握したり、出荷状況を見てお客様との関係を推測したり、品質状況を調べて問題が起きていないかをチェックしました。これらのデータを使って月次の会議などで議論をして経営の方向を決めていたと思います。なぜ月次会議かというと資料の作成に時間がかかったからです。基のデータは手書きの現場日報ですから、終業時に書かれたものに翌日から上司のハンコが次々と押されて最後に事務所でエクセルに数値を転記して、それを資料にまとめることを繰り返しますので、ひと月に一回がせいぜいかというのは理解できます。ひと月ということは、すでに過去のことですから常に判断は遅くなるのは仕方がないということでした。私も若いころ工場で設備の稼働分析をしましたが、紙とペンとストップウオッチを持って丸一日現場に貼りついて調べたその日の稼働状況がまとまるのは次の日の夕方でした。もしもっと短い間隔でその情報を揃えようとしたら10人単位で人が必要になったでしょう。

AXでもDXでも、経営者がXの部分、すなわちトランスフォーメーション(改革)でやることは同じです。しかし大きな違いは、AXの時は紙とペンと計算機を使って人がやったことを、DXになるとセンサーやリーダーが自動で記録を取り、パソコンが計算集計をし、一日後やひと月一回でなく、リアルタイムに全員に情報を配り続けてくれるということです。アナログ時代に人がやったことを、デジタル時代はコンピュータで扱える形にしてやらせるようになったということです。DX化されると、私の若いころの稼働分析は全く不要です。なぜならばセンサーが常に情報を発信し、リアルタイムで稼働率関係のグラフ化された情報が関係者に伝わっているからです。私の仕事でいうと生産性は∞倍になったといえます。何しろかかる時間がゼロですから。

AXの時は元のデータが不十分なので、データ分析力の違いが経営結果に大きく差を付けました。しかしDXになると、今起きていることが全員に判断できる形で情報が行くので、これを持っていない時点で大差が付いてしまいます。いつかは持った方がいいではダメです、すぐに手に入れましょう!

もし5年前にこれらのことをやろうとしたら技術の専門家を使って、莫大なお金を払ってもすべてはできなかったと思います。しかし今は頑張れば自分達でもできる時代になりました。ただしデジタルの勉強が必要です。

みんなで勉強をしてデジタル化に取り組み、経営スピードを上げてこの時代を勝ち抜きましょう!次回はその事例をご紹介します。