新しいモノづくりの考え方 第6回

これからの日本式デジタル化⑤

これまでの連載で、私が考える日本の中小製造業が実現してほしい日本式デジタル化の話をして参りました。今回はデジタル化における経営者の役割について私の事例を使ってお話させて頂きたいと思います。

以前に私はデジタル化の重要性をきちんと認識するのが遅れたと申し上げました。挽回するために、私は若い人の力を借りてYouTube Channel を始めるなど、自分なりにデジタル化の本質を理解する作業を開始しました。デジタル化を自分で進める技術力が不足しているので、果たしてどの程度のことができるのかとおっかなびっくりで始めたチャレンジでしたが、若い人の力を借りて始めてみると、これまでに蓄積してきた私の専門分野の力を十分にデジタル化することができたのです。

実はその少し前、ちょっと大げさですが、「デジタルの時代になり、もう私の役割は終わったのではないか」、といった不安感を持った瞬間があったのです。

しかし、アナログの時代に私はどうしていたのか?と振り返ってみると、昔も各分野の専門技術の知識を十分に持ってはおりませんでした。私のバックグラウンドは経営工学(IE)であり、経営工学の技術を使って、機械工学や電気工学あるいは情報工学の専門家の技術情報と合わせてより多くの利益を生み出すことをしていたことを思いだしました。私がすべての技術を持つ必要はなく、それぞれの専門家が役割分担するのが正しい仕事の進め方だと再認識することができ、一瞬とはいえ不安になった気持ちを吹っ切ることができました。要は、時代がアナログからデジタルに変わることと、私の役割にはあまり大きな変化はないのだと思うに至りました。

「何をバカなことを言っているのだ!」と笑われてしまいそうですが、これは私のようなアナログ世代には少なからずあり得る思考パターンなのではないかとも思ったのです。デジタル化が進むにつれ、経営者が急に時代に取り残された気持ちになって、不安感を持つといったことがあったら困ります。不安感だけならばまだよいのですが、反動でデジタル化の話題を避けるようなことがあってはとても危険です。

経営者の役割はデジタルの時代になってもアナログの時代とほぼ同じです。ただ経営目標の達成にデジタルのカイゼンを導入できれば、そのスピードは速く費用は安くでき、経営効率を格段に良くできるのです。そしてそれはデジタルに興味を持つことでさらに加速することだと思います。

現場にはカイゼンしなければいけないことがたくさんあります。「出来上がった製品を一つひとつ数えているけれど、自動的に数えられないかな?」「容器が一杯になるのを確認して容器の入れ替えをしているけれど、自動で容器を入れ替えられないかな?」「紙媒体が多くて、インプットとか多くて大変だけどペーパーレスにできないかな?」そういうことを若い技術者の方と話していると、私が知らないアプリやデジタル機器を使ってそれらを実現して下さることがしばしば起き始めています。

つまり、デジタル時代の経営者の仕事の進め方として、若い方のデジタル能力をフルに活用して現場レベルからデジタル化していくことの旗振りをしてくださることが大切なのだと私は考えます。

以前にパソコンの2000年問題が起きた時にGEの会長だったジャックウェルチが若者にデジタルを教わり若い人の力に感心し、リバースメンタリングという言葉が生まれて定着したということですが、遅ればせながら日本にもこのことの必要性が出てきました。若い人の参入で真の全員参加の経営になりますね。経営者は必ずしも自身がデジタル技術を持つ必要はありません。しかしデジタル技術を自社の総力を挙げて取り込む積極的なリーダーシップを取ることは絶対に必要です。