プロジェクトでカイゼン [Project de Kaizen] 第64回

テレワークで少数精鋭を目指す(その2)

前回は、そもそもおみこし経営における「組織の空気」はトップにとって難しい面があり、空気を破るためにはひと工夫が欠かせないことを述べました。そして、従業員にとってテレワーク職場には「空気感が無い」ことを問題点のひとつとしてとり上げました。テレワークには様ざまな効用があることも述べました。テレワークは、これからのわが国において働き方のスタイルのひとつとして定着すると思われます。今回は、その前提で「テレワークで少数精鋭を目指す(その2)」です。

まずはマネジメントフリーについてです。テレワークは原則としてひとりだけの職場になります。管理者としてのマネージャーは同じ場所にはいないのですから、マネジメントフリーとは管理者不在ということになります。

【1】マネジメントフリーの前提は職場の規律
わが国の製造やサービスの現場には5S活動があります。整理・整とん・清掃というアクションを継続することで清潔な職場が維持できるようになる。結果として職場に規律(躾)が生み出される。これはわが国だけの素晴らしいシステムです。海外に進出した日系企業でも現地で展開しています。海外拠点では基本的に日本から派遣される管理職はごく少数になります。しかし、この5S活動があるので相応の規律を生み出すことができる事例が数多く報告されています。わが国のテレワーク職場でも、このような規律を維持する活動は欠かせないと考えます。ただ、整理・整とん・清掃や清潔についてはそのままでもよいのですが、テレワークの場合、多少変更することもあってよいでしょう。マネジメントフリーの前提として、職場の規律がまずは基本となります。

【2】日常業務の基本は進ちょく管理
進ちょく管理はテレワークに限らず、組織的な仕事の進め方においては基本となるものです。
担当業務や指示された特別な業務について、案件の進ちょく状況をタイムリーにかつ的確に報告できるためには統一した枠組みが必要になります。

筆者の体験ですが、入社して所属した部署(課)では、大学ノートを使って毎日業務報告をおこなっていました。退社までに提出し、翌日午前中には管理職から戻ってきました。とくに記入書式は決まっておらず自由に書いていました。アドバイスや注意事項は上司の朱書きで示されていました。中には、「いつごろの誰それのノートを参照すること」などと書いてありました。そうなのです!過去のノートがきちんと時系列で保管してありました。かんたんに過去の経緯がわかりました。担当業務の進ちょく管理についてはよくできたシステムでした。

現在はテレワークのシステムがありますから、進ちょく管理もタイムリーに書き込みができるようになりました。定常業務であれば報告の項目は共有されているでしょう。やや非定常的な案件については、項目ごとに次のような内容を書けばよいでしょう。①目的と指示者 ②最終的な成果物 ③具体的な作業内容 ④特記事項(注意点など) ⑤納期または所要日数 ⑥問題点(遅れそうな状況でどう対応しているか) ⑦現在の進ちょく状況(未着手、着手中、手配中、情報問合せ中、終了・・)
このような内容を案件ごとに一覧表にしておいて、変化があるごとに書き込んでいきます。このようにするとプロジェクトの進ちょく管理とほとんど変らないことになります。

【3】プロジェクトと通常業務の差異
プロジェクトは様ざまなメンバーが集まります。他企業との合同プロジェクトもありますから、全員がそろってリアルに集まる機会は限られます。従って、プロジェクトは計画段階からいわばテレワークスタイルの仕組みになっている面があります。つまり、決められたことが自動的に進む仕組みになっています(自動的といっても、進ちょく会議は必要です)。プロジェクトと通常業務の差異は何かについて考えるためにはプロジェクトの三つの要素が参考になります。

           

プロジェクトの三つの要素
・いつもと異なる特別な目的がある
・納入の期限(納期)が決まっている
・メンバー、設備、予算などが決まっている


これらの三つはプロジェクトを成功させるための制約条件でもあります。こうしてみると、プロジェクトと通常業務の差異としては「いつもと異なる特別な目的」くらいではないでしょうか。「仕事の進め方」としてはさほど変わらないと言うことができるでしょう。

【4】空気感が無いことをどう充足するか
テレワークの会議はリアルの会議とは異なり、かなり疲れます。高い緊張感が続くこと、適切な間合いがとりにくいことが影響していると思われます。会議を無くすことはできませんから、時間短縮(会議の時短)が必須条件となります。必要な資料は事前に出席者すべてに送っておき、会議では決定のみにする。これで会議は20分で終わらせることができます。1時間以上の会議が数多くあるような組織、つまり会議の時短ができない企業ではテレワークは成功できないでしょう。

これを踏まえたうえで、職場に空気感が無いことにどう対応すべきでしょうか。筆者はその対応は二つの局面があると考えます。
まずは組織のマネジャーとしては、日常業務の評価があります。評価といっても点数付けではありません。テレワークのシステムで、毎日の書き込みは上司と部下で共有できます。筆者の体験で述べましたが、上司のアドバイスや注意事項、ときには賞賛もありました。このようなことは上司としてはさほど難しいことではありません。但し、部下の成長や発展を願うという真摯な姿勢は欠かせません。

もうひとつは、上司や部下に関わらず働き手としての姿勢です。
これからの時代、部下として指示待ちの姿勢ではAIに置き換えられるでしょう。仕事を自ら興味深くする、掘り下げる姿勢が必要になります。この姿勢の延長上では様ざまな提案が出てくることでしょう。会社に対する究極の提案は「この仕事は不要である」という提案でしょう。極論ですが、こういう提案をする人は組織にとって不要なのでしょうか?その反対でしょう。これくらいの興味をもって業務を追求する人は、これからの時代に欠かせない人材になると考えます。

【5】テレワークで少数精鋭を目指す道を進む
コロナ禍の現在は、明らかにこれからの時代の大きな変化の始まりです。始まりのときはいつでも慣れるまでに時間がかかります。テレワークがうまくいかなくて元通りのスタイルに復帰した企業は時代の流れから取り残されます。職場に空気感が無いことは、確かにテレワークの問題現象でしょう。しかし、解消の努力があれば時間の問題で解決することでしょう。このような努力でいくつかの問題を解決すれば、まさにテレワークで少数精鋭を目指す道を進んでいることになるでしょう。