プロジェクトでカイゼン [Project de Kaizen] 第7回

出口戦略とは何のこと?

前回は、プロジェクトの全体像を見える化するサクセスマップというやり方を紹介しました。プロジェクトには、依頼主、プロジェクトメンバーの他、ユーザーなどさまざまな利害関係者があります。プロジェクトの進行に伴い、進めるべき方向がずれてくることが避けられません。初めのうちはそのズレが少しであっても、そのままにしておくと後になるほどズレはどんどん大きくなります。つねに全体像を確認しておく必要があります。
 
ところで、コロナ感染症対策のための自粛の最中です。「出口戦略をどうする」といった発言をしばしば聞くようになりました。もとは軍事用語のようです。コロナとの戦い、コロナに勝つなどの言葉が飛び交っていますから軍事用語が使われるようになったのでしょう。出口戦略とは、このままでは苦しい状況が続き損害が増えるばかり、どこかの時点で現状を安全に収束させたいというときに立案される作戦計画といったものでしょう。とすると、これはそっくりプロジェクトの世界なのです。いわゆる出口戦略には全体像を把握することが欠かせないこと、そしてサクセスマップで全体像の見える化ができることをお伝えします。
 
まずは、コロナ感染症の出口プロジェクトの目指す姿とは何かを考えてみます。つまり、プロジェクトの最終的な成果物のことです。原因であるウイルスが終息することは難しいでしょう。これまでの歴史で感染症の原因を根絶できた例はきわめて少ないといわれていますから、ウイルスの根絶などではなく、ウイルスとどう折り合いをつけていくか、ということになるでしょう。そうすると、最終的な成果物は感染症に対する医療面での安全対策と国民の安心感、つまり安全と安心ですね。これがまずあるでしょう。安全と安心でいえば、社会・経済活動を再開する必要もあります。これらをまとめて、プロジェクトの最終成果物として「社会の安全と国民の安心」としてみました。途中経過ですが図を掲載しておきます。
 
図 感染症出口プロジェクト サクセスマップ
 
出口プロジェクトの最終成果物については、専門知識よりも、社会や国民から いま何が求められているか、といった感覚のほうが重要になるでしょう。その感覚を言語化して訴求した一例をここで紹介します。英国政府の例ですが、BBCニュースでは次の三つが表示されていました。
 
①STAY HOME…これはわが国でもこのまま使用されていますね。
②SAVE NHS…NHSは国家保健サービス、医療崩壊が起きないようにする。
③SAVE LIVES…命を救う、単純明快です。誰もが納得することがすらりと書いてあります。
 
これらは時期によって少しずつ変えているようです。③「命を救う」は最後まで変らないはずで、①と②はそのために現時点で重視している方策という位置づけになります。サクセスマップは、関係者や専門家の知恵を総合するためのものですから、シンプルなスローガンとは役割が異なります。英国政府の例を引用しましたが、これは最終の成果物として「命を救う」ことはどの国でも共通することを示しています。
 
最終の成果物を決めることからスタートするサクセスマップのやり方の長所を述べます。 まず、シンプルなスローガンでは表現しにくいことも、プロジェクトでは数値目標をつけることで確実に伝えることができます。例えば、「命を救う」において数値目標を、従来の「季節性インフルエンザ並みの被害(死亡率)にとどめる」と設定すれば、国民の大きな安心感につながることでしょう。
 
次に、全体像の見える化により、資源の制約がある環境条件でボトルネックの共有や合意形成を促進することができます。資源(ヒト、モノ、カネ、情報、時間など)には限りがあります。例えば、わが国では検査能力が低いことが指摘されています。検査能力の増強は、最終の成果物に対してどう位置づけられるのか、限られた検査能力を有効活用するにはどうするか、など制約条件がある中での優先順位の検討が必要になります。最終的に追求する成果物は何か、そのための方策には何が優先されるべきか、サクセスマップはこれらの検討を効果的に支援します。
 
今回、特異な感染症に直面して「出口戦略」が語られるようになりました。それはコロナウイルスという自然現象に不意打ちを受けたからでしょう。備えも十分ではなかったので混乱しましたが、その中でようやく対処策を考える段階になったと言えます。出口戦略を「最終成果物とそこに至る道筋を決め、そのための数値目標も設定すること」とするなら、まさにプロジェクトそのものと言えます。プロジェクトの知識と経験はビジネスに限らず、社会活動全般において問題解決と限りある資源の有効活用に役立ちます。

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