虫の眼・魚の眼・鳥の眼 第49回:制約条件があるからこそ、見えてくるものがあります(その2)

制約条件があるからこそ困ることになり知恵が出始める

 手を使わないで足だけでボールをパスしながら、相手のゴールに1回だけでも多く入れることで勝つことができるというシンプルなルールゆえに世界中に広まったと思います。手も使ってボールを抱えて走るとなると、ボールの制御が簡単になります。足で蹴ってパスをすることで、思いのほかにボールが飛んでしまいボールの制御が一気に難しくなりそこに面白さが生まれると考えます。またボールが1つという点にも試合に集中できるメリットがあります。ボールが2つや3つとあれば、観る方もやる方もまったく集中できません。ボールは1個で十分です。しかもどの国でやっても相手選手が変わっても、サッカーやスポーツのルールはまったく同じです。
 さて生産現場はどうでしょうか?標準手持ちは1個で十分なはずですが、2個、3個になっていませんか。異常があった時に、すぐに笛を吹いて黄色や赤いカードを出してラインをすぐに止めていますか?お金がないから、人がいないから、時間がないからと、あれこれ言い訳をして日々の改善を怠っていませんか。
 異常があってもアンドンやブザーなどで知らせても、班長やリーダーの反応なしではオペレータもやがて異常を知らせなくなります。しかも異常を隠すようになると、やがて不具合品が市場に出てクレームになってしまいます。職場内の信頼関係も崩れていきます。これらの制約条件があるからこそ、眠っている潜在能力を引き出す良い機会に変えていきましょう。
 嫌なことや困ったことがあった時は、発想を変えて「これは私の出番だ、困難を待っていました!」と喜びたいものです。これらが発生した時に、すぐに「今気が付いたぞ、ラッキー!」と叫んでみましょう。知恵を出すには、あえて心にスイッチをオンにすることです。

自ら制約条件を作って自分を追い込むとアイデアが出てきます

 設計開発をしていた時期に、これはヒットだと思う実用新案を提出したことがあります。やがて公開されるとライバルメーカーの集中攻勢に遭い、周囲のパテントを完全に抑えられてしまい結局使うことができなくなったことがありました。とても悔しい思いをしました。
 それから新商品や新構造を考案したときは、特許や実用新案を1件ではなく周囲を完全に抑えるために、アイデアを10件出すことを自分に課せました。2件、3件は割と簡単に考えることができますが、5件も周辺を考えることはかなり辛いものでした。当時は能力や発想も乏しく頭も随分汗をかいたものです。
 でも一度10件を考えて周辺を抑えて書き上げたら、次からは自信ができて必ず達成できるようになったのです。苦にならずに逆に快感を覚えるようになったのです。上司からいわれてやったのではなく、自ら制約条件を課したのが良かったと思います。一度自分の殻を自ら破ることが、いかに自分を成長させるかを教えてくれた体験でした。お金がない、時間がない、人がいないなどという制約条件に遭遇したら、「これらの制約条件に感謝、ラッキー!」これで頭を使うことができるぞと叫んでみましょう。