現場カイゼンレポート 第八回

全体の中の自分をvideoで見る

20年くらい前のことですが、自動車製造A社B工場では頻繁にカイゼン活動が行われていました。その中で大型プレス職場には当時5人で50分かかっていた複数の大型プレス工程の段取り替えを40分にする計画が提示されました。A社は当時、新しい生産方式の立ち上げを目指しており、全工場がその実現のためのカイゼンに取り組んでいました。そしてB工場のプレス職場がその役割を果たすためには更なる段取り替えスピードが必要であったのですが、段取り作業者の皆さんはその目標を聞いて、とても難しいと尻込みをしたのです。話を伺うと、その少し前まで大型プレスの段取り替えは5人で60分かかっていたのを、5人それぞれの作業を徹底的にカイゼンしてようやく50分にまで低減できたばかりであったのです。個々人の動きはこれ以上変えようがないところまでカイゼンしておりこれ以上はとても無理と思ったとのことでした。

全社で共通の目標に向かってカイゼンをする中で、一つの職場ができない理由を言うわけにはいかないので、工場長も私も入って皆で目標達成の方法を考えました。しかし前回のカイゼンで個人の作業速度のカイゼンは限界までしていたので、5人がどのように作業を分担するかといった全体のバランスや複数の作業者の連携作業のカイゼン以外に解決の方法は思い付かず、カイゼン余地があるとすればここなのではないかという考えに至りました。全員の動きの状態をどのようにしてとらえるかという方法がなかなか見つからなかったのですが、最終的に、5人全員の動きをそれぞれビデオで撮影して見てみようということになりました。

後日4台のビデオカメラを5人の段取り作業者の間に置き連携の様子を撮影し、次に4台のテレビを並べて同時に映して全員の連携状況などを観察してみました。するとそれまでは個人の動きなので限界であった仕事のやり方に対して、わざわざ遠くにモノを取りに行ったり一回で済む仕事を何度もしたりという、共同で行えばカイゼンできる項目がたくさん見つかりました。

ここで素晴らしいことが起きました。大きな目標に一度は尻込みしたチームの皆さんでしたが、自分達の目で大きなカイゼン余地を見つけたことでカイゼン魂に火が点いたのです。その日から皆さんはビデオで分かった問題点の解決に向けてアイデアを出し、これまでやった作業カイゼンも連携をすることで更に細部まで踏み込んでレベルを上げるなど、多くの作業を見直すことができました。また生産技術部門の力も借りて、これまで後回しにしてきたちょっとした不具合もすべて直し完全な状態にしました。これ以外に生産管理部門が段取り替えのタイミングを工夫して作業を少なくするカイゼンを行い、技術部門は金型押さえの自動化を実現する等、多くの部門が積極的に協力して段取り替え時間短縮に向けてのカイゼンをしました。

その結果は工場長を始め誰もが驚いたのですが、目標の40分を楽々クリアーして30分でできるようになりました。チームメンバーが自分達のカイゼンが経営的に重要な立場にあることが分かり、工場長や他部門の積極的なサポートも受けて高いモチベーションを持ったことでできたのだと思います。

余談ですが、ビデオ撮影に当たって、工場にあるビデオカメラでは足りず、参加者の家庭用ビデオカメラも提供してもらい実行することになりました。またビデオを見るテレビも当時はブラウン管型で大きく重く一か所に4台並べることも大変でした。今ならスマホやタブレットを使えば簡単にできることですが、当時はそうでなく大いに苦労したことを思い出しました。