現場カイゼンレポート 第五回

塗装の品質をあげる

自動車メーカA社のボディ塗装ラインでカイゼン会を開いた時の話です。新型高級車の生産が始まったのですが、外観の高級感を出すために、塗装品質はこれまでの普及型車種より高レベルの基準が設定されました。それまでであれば合格だったものが不合格になる可能性があるのですから、塗装工程の皆様はその決定を聞いてかなり心配になりました。

実際に生産が始まると、塗装ラインは以前からカイゼンチームが積極的に塗装品質カイゼンを実行してきたことが功を奏し、品質基準が上がっても「気泡」や「キズ」などほとんどの項目をクリアーすることができたのですが、1項目だけクリアーできない項目がありました。それは小さなブツゴミ(塗料カス)が時折付着する問題でした。この問題はこれまでも発生の原因を把握し切れないことが多く、技術的にも管理的にもカイゼンの余地が大きいと思われていたもので、塗装工程の皆様の心配の原因はこれでした。

ブツゴミ対策としてはこれまでも問題発生の都度カイゼンを重ねてきていました。例えば、週明けや清掃直後にブツゴミの付着が増えていることを発見し、塗装ブース内の清掃のやり方や設備稼働の管理に工夫をしたり、あるいは塗料の中に元々あったゴミを減らすカイゼンを塗料メーカと一緒になって塗料品質そのものを向上させたりしていました。そのようなカイゼンを実行していたにも関わらず不良が発生するので、これ以上の成果を出すのは無理なのではないか…、という重い空気がカイゼンチームのメンバーに広がりました。

そこでチームリーダーのBさんが「これまでいろいろなカイゼンをして来たけれど、まだやっていないこともあるのではないか?」という問題提起をしました。すると「ブツゴミが車体に付着した結果の状況は見ているけれど、車体に付着する瞬間は見ていない」とメンバーの一人が言いました。その発言でBさんはブース内の空気の流れを把握すれば何かが分かるのではないかと思いました。

そこで、Bさんたちは塗装ブースの中でどのような空気の流れになっているのかを見てみることにしましたが、どうすれば見えるかが次の問題でした。ブース内は火気が使えないのでドライアイスを試してみましたが、ドライアイスは重いので床に溜まってしまい気流を見るのには使えませんでした。困っていたところ、塗装課長がミストを使うことを提案してくれたので、A社内の開発実験部門からミストを発生させる装置を借りてきて、ブースの中をどのように空気が流れているのかを調べてみたのです。ブース内はどこでも均一な流れになっているはずだと皆は思っていました。実際にミストを使って空気の流れを可視化してみると、予想通りほとんどの所は均一な流れができていましたが、一部ではありますが例外があることが分かりました。その例外的なところの周辺を細かく観察すると、他の所と較べてかすかに塗料のカスが付着していることが発見されました。一律の清掃では取り切れない汚れがその部分に溜まっていたのです。

数か所に見つかった汚れの部分をきれいにしたところ、これまで発生していたブツゴミ不良が半減し、驚いたことに高い基準であるにもかかわらず以前を上回るレベルの良品率を達成するようになりました。誰もが問題なしと思い込んでいたブース内の空気の流れでしたが、ミストで見える化して自分の目で見てみると問題がありました。

もし今回のようなチャレンジの機会がなかったらずっと気付かないままであったと思います。最初は皆が心配になるような大きな変化でしたが、真っ向から取り組んだ結果、以前より高いレベルのモノづくりができたという、まさに「ピンチを乗り越えたカイゼン」といえるでしょう。