脱力・カイゼントーク 第42回

お金をかけるカイゼン 現状調査

機械加工組立をしているP社のカイゼン会で、Q社長から「品質も生産性も向上するのですが、かなり高額で投資を回収できるかどうか分からない設備を買うことに意味があるでしょうか?別に今の製品の品質が悪いということではありません。」というご質問をいただきました。

これは非常に難しいがとても良い質問だと思いました。

P社の製品を作るには高い平面度が求められる工程があり、それをプレス加工で作っていました。プレスで生産するとどうしても平面にひずみが残ります。それを求められる精度にするのにプレイナーなどの機械だけでは精度を出し切れず、熟練作業者が表面の状態を見ながら丁寧に曲げたり叩いたりして調整していました。人による作業なので、検査に合格はするものの出来ばえに多少のバラツキが出ていました。また、この仕事をできる人が限られており、タイミングによってはボトルネックとなるなど問題のある工程になっていました。

Q社長が考えている設備はレーザー加工機でした。レーザー加工機を使うと、作業者による調整なしでより高い平面精度を出すことができると分かり、Q社長はレーザー加工機の導入を検討していました。ただし、お客さまがその品質を望まなければ「過剰品質」になるだけです。そして、新しく設備を購入するとひずみ取りにかかる労務費は下がり、作業の効率は安定しますが、初期投資が大きいため固定費が上がるので、投資資金を回収するまでの期間は結果的にコストアップにつながり利益を圧迫する恐れがあります。このことにより、Q社長はこの設備購入の判断はカイゼンの考えに反するのではないかと考えたのかもしれません。

しかし、もしそこで得られる品質が高品質で魅力的な付加価値としてお客様に受け入れられれば、商品をより利益が取れる価格で販売し、投資の回収を早められる可能性もあります。私はQ社長がより高度な機能を望む人たち向けのプレミアム商品として新商品開発を計画し、需要があるかの市場調査を行い、未来に向けての新たな挑戦も視野に入れておられることを知っていました。新たな設備を導入し計画通りに商品ができた場合、その時点で市場に存在しない革新的な商品であり、挑戦してみる価値が大いにあり、私はこの新設備導入の判断を後押ししたいと考えました。経費削減のカイゼンも重要ですが、未来に向けたカイゼンや挑戦もこれからの時代には重要なテーマだと考えているためです。