新しいモノづくりの考え方 第10回

これからの日本式デジタル化⑨

今回は、日本の製造業のデジタル化に向けて必要な経営者の役割について考えてみたいと思います。

デジタル化において、現在日本は残念ながら欧米の先進国に後れを取っています。これは大きな問題であり、すぐにでも対応を取る必要があることです。しかし私はここでの対応は、先を行く欧米が通った後を急いで追いかけるということではなく、日本の強みを生かした独自の方法でデジタル化を進め、結果として大きな成果を上げるアプローチを取ることだと確信しています。欧米のマネではデジタル化はうまく行かないのです。

ちょっと極端な表現をしますが、これまでの欧米のモノづくりはほとんどトップダウンです。現場作業者は文字通り単純労働をしており、言われた通りのことをするが、それ以上はしない。その結果、カイゼンなどは存在しないともいえる状態です。また設備稼働率、品質状況、在庫状況などの現場発の情報はそこに留まり、経営者の元にはきちんと届きませんでした。そして経営者自身が現場で直接に作業者に接するということも日本のようにはありません。その結果、モノづくりのレベルは日本の方がはるかに高いという評価がされていたと考えます。

しかし、欧米のそのような状況がデジタルシステムの登場で変わりました。欧米ではこれまで社長に伝わらなかった現場の状況がすべて社長室にあるディスプレイに表示されることが可能になったのです。設備稼働率、品質状況、在庫状況はもちろん、今日の作業者の出勤状況、顧客ごとの出荷状況、工程内在庫の状況などすべてが手に取るように分かります。これまで彼らは自ら現場に行って情報を取るという方法がなく、現場をリアルに知ることができないという経営者として致命的な欠陥を抱えていました。これは逆説的にいうと、長い間この状況を克服するというニーズがあり続けたのですが、とうとうデジタル化という武器を手に入れ長年の願いを達成したといえるでしょう。

それでは、以前から現場を知っている日本の経営者はどう対応するべきでしょうか? すでに知っている現場情報を、改めてデジタルを使って見るということだけでは大きな意味を持ちません。進歩した欧米の製造業に対抗するには何か別の新しい切り口が必要です。

欧米の経営者はデジタル化を通じて多くの新しい情報を得ることに成功しましたが、実はデジタル化だけではどうしても達成できないことが残っています。作業者が中心になって行うカイゼンです。日本の経営スタイルはボトムアップです。経営者の指示はありますが、それは欧米のそれと較べると大まかな方向の指示であり、具体的な進め方は現場中心で確定します。トップダウンでは到底気付くことができないキメ細かいカイゼンが実行されます。ここに注目するべきだと思うのです。

欧米のデジタル情報は経営者に行きますが、私が望む日本の製造業のデジタル情報は経営者だけでなく作業者にも届けます。経営者には更に経営がしやすい情報が、作業者にはこれまで以上にカイゼンしやすい情報が届き、これまでと違う高いレベルの品質、生産性、リードタイムを達成できるカイゼンが行われ、経営成果が上がり、経営者が喜ぶという関係です。

この日本の強みを生かした独自の方法でのデジタル化ということを上手に進める前提条件として、経営者がこのデジタル化のテーマに強い興味を持って参画することがあげられます。全体を見渡して常に全体最適のバランスを取りながら皆を励ましながら前進するリーダーシップを取って戴きたいのです。

欧米では一部の経営層の人が考え、それ以外の人は考えません。日本では全員が考えます。それゆえ、一つひとつの仕事のやり方は日本のレベルが高いのですが、それらがバラバラに実行されると部分最適のカイゼンとなり、全体最適にならず生産性があがらないことが起き得ます。デジタル化の最大のメリットは全体の整合性が取れて全体最適の状況を作れることなので、このバラツキは何としても排除する必要があります。そのために経営者がデジタル化の全体の動きに目を配り、常に全体のバランスを取り続けることが求められることになります。

この日本独自のやり方をこれから具体的に見つけて行きたいと思います。皆様どうぞご一緒に前進して参りましょう!