プロジェクトでカイゼン [Project de Kaizen] 第48回

経営のプロトコルを活かす

前回は、企業文化をとり上げました。「よそがやっているならウチは止めろ」などはまさに企業文化です。経営のプロトコルは企業文化とは別ものですが、約束事や決め事として組織に定着しているものです。経営者のレベルから担当業務のレベルまで幅広い範囲にわって存在します。その事例をご紹介しました。
今回は、経営のプロトコルについて望ましいものを活かすためにどうするか、どうすればそのような雰囲気にもっていけるかについて述べることにします。

【1】基本は現場に任せること
望ましい経営のプロトコルの基本のひとつは、現場の自主性を尊重することです。
ソニー創業者井深さんの感じたストレスについて、同社OBから聞きました。第2次世界大戦中、技術者として軍務についていたとき、製作のための仕様書を渡され「この通りにつくれ」と命令された。自分のやりたい改善を織り込むことは一切許されない。「こんな苦痛なことは無かった」と言われたそうです。戦後、技術者が思ったとおりのことを自由にやれる企業ソニーをつくった。続けて、OBご自身の回想です。「当時はやりたいことは何でもやれた、閉塞感やストレスは何も無かった」。もうひとりの創業者盛田さんも「あなた方のほうが良く知っているのだから、思うようにやりなさい」と現場任せだったとのこと。やりたいことは何でもやれたソニー、これが世界のソニーの原動力になったのですね。
もうひとつ、最近の話題を紹介します。業績絶好調のネットフリックスのCEOが、同社経営の秘密を説いた著書があるそうです。書名は“No Rules” あなたを縛るものは何もありません、自由にやってくださいということなのでしょう。
任せることの効用は、最終的にはこういうことなのでしょう。そうはいっても、いきなりその境地に至るには準備の段階が必要かもしれません。次のようなやり方があります。

【2】既存の枠組みを活用する
5Sを他の職場でやってみる
カイゼンの5S活動は、製造やサービスの現場ではよく知られています。他の職場での実践事例はまだ少ないようです。これを、例えば設計現場で実践してみます。5Sを製造とそっくりそのまま(整理・整とん・清掃・清潔・躾)持ち込んでも、設計現場ではあまり有効な活動にはなりにくいでしょう。どういう5Sにすれば設計現場の問題解決につながるのか、自分たちで考えてもらいます。そして、自分たちで決めた「設計の5S活動」を続ける。そこから、経営のプロトコル、大事にしていくべき約束事は何かが見えてくるでしょう。同時に、その活動を通じて設計現場の自主性が高まることが期待できます。

【3】全社プロジェクトで試行する
内製と外注の分担を変えてみる
製造業であれば汎用部品は購入するとして、割合大きな部分は内製と外注に分担が分かれます。新規案件の機会をとらえて、これらの大幅な変更をやってみます。わかりやすく言うと、従来オール内製であったとすれば「オール外注」でやってみることになります。
オール外注を試行する場合、購買や資材部門だけでできるものではありません。ほぼ全社的なプロジェクトによる取り組みが必要になります。これからの時代は、企業間連携やM&Aが避けられません。この試行プロジェクトでは、外部企業と従来とは異なる側面でのおつき合いをすることになります。その中から、自社で大事にしていくべきことや新たな課題が見つかります。

ここで紹介したやり方は、いずれも現場にかなりの負荷をかけることになります。
現場の負荷を緩和する根本的な対応、業務効率化が必要になります。例えば、テレワークについて社内での実施が遅れているとしても外部とは最優先で実施できるようにする必要があります。関係者の移動時間の節約などの効果は見過ごせません。
また、業務効率化で必ずと言っていいほど話題になる会議の効率化についても、従来の呼びかけタイプから脱してプロトコルとして定着させる必要があります。連載第44回で紹介した会議の運営についてのプロトコルを再度掲載します。

【4】会議の運営にもプロトコルを適用する
筆者がお付き合いしている製造業A社で実践されているやり方です。

会議の運営を次のように定める
会議の目的 新規案件についての採否決定
意思決定者 企画部長
案件がもつ問題を収束させ具体的な実行課題として全員で認知する
課題のその後の進ちょく状況を確認し問題があればとりあげて解決する
組織のかかえる慢性的な問題はこの会議では扱わない(別途とする)
案件ごとに討議の経過や進ちょくなどを記録し共有サイトにアップする

このような約束事を決めてそれを守るようにしました。それにより、従来2時間以上かかっていた会議が20分程度に激減したやり方です。筆者の見るところA社では「慢性的な問題を扱わない」が大幅な時間短縮のカギになりました。どこがカギになるかは組織によって異なると思われますが、このプロトコルは切り札的な威力を発揮するでしょう。