プロジェクトでカイゼン [Project de Kaizen] 第34回

おみこし経営の陥りがちな弱点とは

前回、おみこし経営のわが国の特長として二つのことを取り上げました。まず、経営に限らず欧米社会の一般的な傾向として、他の意見を聞かず自己主張に偏っている状況を紹介しました。それに対して、わが国では異論に耳を傾ける経営姿勢があります。これは、現場のやる気の面で格段の差が生まれます。もうひとつは、より本質的なことになります。人を単なる資源のひとつとみなすのではなく、人は考える力や自ら成長する力があると考える経営姿勢です。わが国の成長や発展に貢献してきたおみこし経営にはこのような優れた特長がありますが、反面、陥りがちな弱点もあります。
今回、筆者が26年間勤務した日産自動車での体験を踏まえながら述べることにします。

【1】日産ゴーン改革はどのような状況で始まったのか
1999年からの日産ゴーン改革はどのような状況で始まったのか。ここに至った状況にはおみこし経営の典型的な弱点がありました。列挙すると、リーダーが外界の変化や変革の必要性に気づかない、うすうすは気づいてもまだ大丈夫と言い聞かせて本格的な対策を打たない、大きな変革をリーダーが先頭に立ってやるにはカリスマ性が足りない。また、おみこしを担いでいる人たちも改革に不安があるので強く訴求できない、もはや戦時なのに何も行動を起こせない・・。

弱点その1 戦時に弱い

戦時の対応をどうするか、これが難しい。おみこしがあるので、外界の変化に気づきにくい、気づいても対応が遅れやすい。ボート経営の場合はリーダーひとりで意思決定できますから、気づきさえあれば強いリーダーシップで行動を起こすことができます。もちろん、強いリーダーシップがあっても外界の変化に気づくことが遅れることはあります。要はセンスの問題です。おみこし経営では、センスはあってもリーダーシップが弱いとき(カリスマ性に欠ける場合など)は変革のための行動を起こしにくくなります。

ここで、弱点という今回の本題とはちょっとそれることになりますが、日産ゴーン改革はおみこし経営とボート経営、両者をうまく活用したことを述べておきます。

【2】典型的なボート経営のリーダーが日産ではおみこし経営を
ルノーから派遣されたゴーンCEOは欧米でのキャリアを積んだ典型的なボート経営のリーダーでしたが、日産ではおみこし経営を上手に活用しました。日産リバイバルプランの出発点は、現場からの改善や改革を積上げたものでした。つまり、現場の声をしっかり反映したものでした。しかし、これが正式に発表されたときは、①2000年度に黒字化 ②有利子負債7,000億円以下 ③売上高利益率4.5%以上 などのようにすべて財務指標に置き換えられていました。これはもちろん彼の強い希望でありリーダーシップによるものだったでしょう。現場の声は十分に聞いた、あとはオレについてきてほしいということです。シンプルにまとめると、単身で日産に乗り込んだが、「おみこし式」でやらないとうまくいかないと気づいた。改革の提案では下からの積み上げを、最終的には「ボート式」で自分のものに変化させた。筆者にはこのように見えます。日本の組織はどうやれば持てる力を発揮するのか、その洞察力には抜きん出たものがあったと思います。

【3】おみこし経営の多様性とはさまざまな意見を許容すること
ボート経営はリーダーの意見が全てです。
リーダーがプランAと言えば、部下のプランBはまず採用されません。もちろん、このためにリーダーが間違っていたら企業は倒産します。わが国のことですが、一部のアマチュアスポーツや体育会系組織の閉鎖性が問題になります。リーダーに対する批判ができないことは、どのような組織にも共通するかなり重い短所となります。
おみこし経営は部下や組織の意見を取り上げます。わが国の組織メンバーは参画意識をもっていますから、多様な意見や考えが出てきます。正反対の意見も珍しくありません。このような状況でコミュニケーションを有効に働かせてコンセンサスをとりつけるのは難しいことです。

弱点その2 コンセンサスが難しい

組織内でコンセンサスをとりつけるために時間がかかります。リーダーがプランAと考えていても、部下にプランBやプランCなどの異なる提案があれば丁寧に協議する必要があります。実際のところ、うまく行くときはどれを採用してもたいていの場合ほとんど差はありませんが、時間をかけてコンセンサスをとることが欠かせません。細かいことをリーダー(経営者)がきちんと聞いてくれたことが重要です。前回述べましたが、欧米の「他人の意見を聞く気が無い」つまり、自分の主張のみでそれ以外の意見は認めないやり方とは大違いです。この差異が実行段階でのやる気と協力を生み出すもとになります。
従って、かねてから意識して「ボート経営」的なやり方を取り入れておく必要があります。戦時にうまく機能するように、短時間でコンセンサスが得られるよう「ミニ戦時」の対応に慣れておくことが必要になります。

ここまでおみこし経営とボート経営を区別して説明してきました。現実には、おみこし的なやり方とボート的なやり方が混在することになります。次回は、そこにもわが国固有の特長があることを述べることにします。