
今年の1月1日から「下請法」は「取適法(中小受託取引適正化法)」へと改正されました。およそ20年ぶりの大改正であり、狙いは明確に「中小企業の賃上げ原資を確保すること」です。象徴的なのは、「下請」という言葉そのものが法律から消えたことです。上下関係を前提とした考え方を改め、対等な取引関係で協議することを、ルールとして求める方向に変わりました。
改正の柱の一つは、受託側が価格見直しを求めた際に、発注側が協議を拒むことを禁止した点です。もう一つは、手形払いなど、資金繰りを悪化させる取引慣行に歯止めをかけたことです。これは、「現場でどれだけ努力しても報われない構造」を変えようとする、強いメッセージだと思います。
ここで経営者に求められているのは、この制度改正を機に、自社の価格がどの価値に基づいて決まっているのかを、改めて見直すことだと思います。材料費や人件費といった原価構成だけでなく、様々なカイゼンによって品質が安定していること、納期を守り続けていること、トラブル時に柔軟に対応していること。これらはすべて価格の根拠になる価値であると思います。
最近、私は配車アプリを使ったタクシーを利用する機会がよくあります。とても便利でタクシーが使いやすくなりました。アメリカではライドシェアが自由競争で普及した結果、価格が下がったと言われていますが、日本では制度上の制約があり、料金は下がっていません。むしろ、呼び出し料金が加わることで、キャンペーンなどの特例を除いて従来より割高になります。
それでも利用者が増えている理由は明確です。「待たされない」「使いやすい」「支払いが簡単」といった付加価値が大きく向上したからです。その結果、タクシーの稼働率が上がり、単価も上がり、タクシー会社の収益は向上し、運転手さんの収入が上がり始めていると聞きました。
これは単なる値上げではありません。配車アプリを使った会社は、その付加価値が評価されたので値上げを受け入れられたのです。提供する価値を明確にし、その対価として価格を見直した好例です。製造業でも同じことが言えます。現場で積み上げてきたカイゼンは、コスト削減のためだけのものではありません。
高級家具を生産するA社では、親会社からの生産指示が度々変動するので生産が間に合わず、納期を守るために、自社で多くの在庫を抱えていました。何とかこの過剰在庫を解消しようと親会社の営業担当に状況を尋ねると、彼らは自社の組立工場の在庫状況を見ながらA社に在庫補充型で注文を出していることがわかりました。たまたまA社の工場長は親会社の工場長と懇意でしたので、両工場長でお互いの在庫状況を共有することができるようになり、それまでの過剰在庫問題と突然の発注による納入遅れは解決し、その功績が評価されA社はかねてから依頼していた納入価格改定に成功しました。
納期を短くする、発注方法や在庫共有のサービスレベルを上げる、性能を向上させる、これらはすべて付加価値です。付加価値を高め、それを言葉と数字で示し、正しく評価してもらう。そうして初めて、価格改定は「お願い」ではなく「協議」になります。そして外部からの評価が高まれば、人手不足の解消にも、利益の向上にもつながっていきます。
経営者にとって価格改定は勇気のいる決断です。しかし目的は、値段を上げること自体ではありません。従業員の生活を守り、現場のカイゼン力を維持し、次の投資につなげるための手段です。価格改定を避け続けることは、静かに会社の体力を削っていく選択にもなり得ます。だからこそ今は、「付加価値を上げるカイゼン」と「価値を価格に反映させる経営」を、セットで進める時期なのだと思います。