脱力・カイゼントーク 第117回

カイゼンと経営の関係を考える 5 適正在庫の精度を上げる

私が考える適正在庫とは、その会社の実力値を前提に、計画どおりに出荷できる最も少ない在庫のことです。ここでいう実力値とは、良品率や設備稼働率、出勤率、さらにはリードタイムの安定性などを指します。もし良品が100%でなければ、その分を見越して少し多めに作る必要があります。つまり、適正在庫とは理想の数値ではなく、現状の実力で欠品を出さずに出荷を守るための「いまの最小限の在庫」なのです。

しかし、本当に目指すべきは、その「いま」を基準にした適正在庫を決めて終わることではありません。そこから一歩進めて、カイゼンによって実力そのものを引き上げ、適正在庫の精度を継続的に上げていくことが大切です。まずは現状を正しく見える化し、実力値を定量的に把握することから始めます。不良率が高いならその分だけ余分な在庫が必要になりますし、段取り時間が長ければロットを大きくせざるを得ません。逆に、設備稼働率が高く、品質が安定していれば、少ない在庫でも安心して出荷できます。適正在庫は、現場の力を映す鏡でもあるのです。

次に、実力を引き上げていく段階では、いくつかの重要なカイゼンがあります。まず効果が大きいのは段取り替えのカイゼンです。段取り台車を作ったり共通治具化を進めたりして、段取りレス化や段取り時間短縮を実現し、生産ロットを小さくできれば、必要なときに必要な分だけを作るモノづくりが実現します。これにより、倉庫に滞留する在庫が自然に減っていきます。経営者にとって重要なのは、段取り替えによる時間短縮効果がどれだけあるのか、不良がどれだけ減ったのかなど、これらのカイゼンが経営にどう貢献しているかを把握することです。

さらに、設計の工夫も欠かせません。部品の共通化やモジュール化などにより、部品点数や手配の複雑さを減らすことができます。例えば、ねじやコネクタ、コイル材などの種類を見直して共通化すれば、調達の手間が減り、在庫を抱える必要も少なくなります。これらのカイゼンは販売量とのバランスを踏まえて意思決定しないと、設計を変更して在庫は減っても、販売量によっては投入費用を回収できないことがあります。したがって、本当に採算が取れるかを事前に検討し、合意のうえで設計変更を決定することが求められます。

品質のカイゼンも適正在庫の精度アップに直結します。不良が減れば余分に作る必要がなくなり、歩留まりが向上します。また、生産技術や保全部門の取り組みも重要です。設備の突発停止を防ぐ予防保全を徹底すれば、稼働の信頼性が高まり、過剰な安全在庫を持たなくても安心して計画を立てることができます。購買部門も、仕入先と連携して納入ロットを小さくし、高頻度の納入体制を築けば、倉庫での滞留が減り、流れがスムーズになります。これらもカイゼンの成果がどのように経営に貢献しているかを確認します。

こうした一つ一つの取り組みを重ねることで、適正在庫の精度は上がっていきます。つまり、カイゼンを通じて会社の実力を高めるほど、持たなくても回る仕組みが整っていくのです。適正在庫は数字の話ではなく、現場と経営の実力をどう上げるかという取り組みそのものです。段取り替え、設計変更、品質向上、保全の徹底、調達の工夫──これらの活動が連動して初めて、会社全体の流れが変わります。適正在庫とは、こうした一連の努力の結果として実現する「経営と現場のバランス点」です。適正在庫の精度向上は在庫を減らすことが目的ではなく、会社の実力を一段上に引き上げる挑戦です。現場を少しでも安定させ、流れを止めない仕組みをつくること――それこそが、精度の高い適正在庫を築き、キャッシュを浮かせ、場所を空け、生産性を上げる経営カイゼンの第一歩です。