
前回、ロボット導入の本質は「人を減らすこと」ではなく、「人の役割を変えること」だとお話ししました。ロボットが〈手不足〉を補ってくれたことで、これまで手が回らなかった人材育成やカイゼンといった、人にしかできない仕事に時間を使えるようになった、という話です。
その後あらためて調べてみると、すかいらーく系列のファミリーレストランで使われている猫型配膳ロボットは、「設備」ではなく「仲間」のように扱われている、という記事に出会いました。店によってはロボットに「とんかつ」や「ポチ」といった名前が付けられ、朝礼に参加し、起動時には「ハロー! 今日も元気に、一緒に頑張ろうニャ〜」と声をかけます。配膳を始めると「お料理ありがとう!」と話し、従業員からは「共に働く仲間として親近感が持てる」という声も上がっているそうです。
この話を読んで、私は昔勤めていた日産自動車の座間工場を思い出しました。溶接ラインのロボットに「聖子」や「明菜」といった名前が付けられ、「今日は聖子の調子がいいな」といった会話が自然に交わされていた現場でした。一見すると意味のないことのように思えるかもしれません。しかし実際には、こうした行為がロボットへの拒否感を和らげ、「どう使えばもっと良くなるか」を考える土台になっていました。
ロボットを「外から押し付けられた設備」と感じている現場では、トラブルが起きても「機械が悪い」で話が終わってしまいます。一方、ロボットを「一緒に働く存在」と捉えている現場では親近感や興味が湧き、良い点、悪い点をより深く考えるようになります。その結果、「ここを直せばもっと使いやすい」「この動線は無理がある」といったカイゼンの視点が、ごく自然に生まれてきます。
先日、ガストで食事をしながら店内を行き交うロボットを眺めていて、もう一つ印象的な場面に出会いました。猫型ロボットが料理を運んできたとき、子どもたちが料理を受け取ったあと、ロボットの頭をなでるのです。すると猫の顔がにっこりと笑顔になる。それを見て子どもたちは大喜びでした。きっとあの子たちは、次も「猫ちゃんに会いに行こう」と、この店を選ぶでしょう。配膳ロボットは、いつの間にか立派な“営業猫”の役割まで果たしているのです。
では、なぜロボットを仲間のように扱うことが、現場に良い影響を与えるのでしょうか。そこには人の心理が大きく関係していると思います。目新しく身近にはないものに触ることでワクワクします。人は、反応を返してくる存在や、感情を感じさせる存在に対して、自然と親近感を持ちます。話しかけると返事をし、触れると反応する。猫型ロボットのこうした仕掛けは、現場に受け入れられ、カイゼンの対象として向き合ってもらうための大切な工夫になっています。
すかいらーくでは、ロボットの走行ルートや停止位置、声かけの内容に至るまで、現場の声をもとにカイゼンを重ねているといいます。ロボットは完成品として現場に置かれるのではなく、現場と一緒に育てられています。この関係性こそが、ロボット導入を成功させている最大の要因だと、私は思います。
カイゼンとは、ムダを取る活動であると同時に、人と設備の関係を良くしていく活動でもあります。ロボットを導入したら終わりではありません。ロボットとどう付き合うかを、現場と一緒に考える。その姿勢があれば、自動化は現場を冷たくするどころか、むしろ温かく、強くしていきます。
これから工場にも、協働ロボットやフィジカルAIを使った設備が、ますます入ってくるでしょう。それらを「ただの機械」と見るのか、「苦労を分かち合う仲間」と見るのかで、現場の空気も、カイゼンの質も大きく変わります。つまらないモノに興味を持てと言われてもそれは無理でしょう。職場を楽で、楽しく、そして強いものにしていくために、次にファミレスで猫型ロボットを見かけたら、ぜひその頭をなでてみてください。