脱力・カイゼントーク 第124回

カイゼンと経営の関係を考える 12 経営者が変わると、現場が変わる

もう30年以上前の私がコンサルタントになりたての頃の話です。ある指導会で、社長を筆頭に役員、管理職、一般従業員が集まる場がありました。その席で、現場の職長が生産性向上に関するカイゼン案を提案しました。内容は決して悪くありませんでしたが、私には「もっと良いやり方がある」と感じられるものでした。

私はその点を指摘すべきか迷っていましたが、社長がその提案に対して「やってみたらいいね」と言われたため、その場では何も言いませんでした。会の終了後、その件について社長にお聞きすると、社長も同じように「もっと良い方法がある」と感じておられました。それでもあえて口を出さなかったのは、職長自身がやってみた結果から気づくことこそが、次の成長につながると考えたからだそうです。その話を聞き、私は自分の判断力の甘さを反省すると同時に、良し悪しだけでなく経営者の現場への向き合い方の大切さを強く感じました。

一方で、つい最近、別の会社でまったく逆の場面に出会いました。その社長は「もっと現場からカイゼンを出してほしい」と日頃から口にしておられました。しかし、実際にカイゼン提案が出てくると、「それは前にもやった」「それに意味があるのか」と、つい評論家的な言葉を発して社員のアイデアをダメ出ししてしまうのです。社長に悪気はないのですが、現場は「どうせ言っても否定される」と感じ、次第にカイゼンの提案は出なくなっていきました。

私はこの社長に、カイゼンの結果を求めている事は充分に理解していることを伝えた上で、先ほどの若い頃の経験をお話しし、従業員の「考える力」を伸ばすことの大切さと、そのために経営者が果たす役割について話し合いました。これをきっかけに、社長は現場への接し方を意識的に変えました。カイゼン提案に対して、まずは「よく気づいたね」「やってみる価値があるね」と一度受け止める。結果が出なくても、「挑戦してくれたことが大事だ」と言葉にする。カイゼンは一度きりではないので挑戦する意欲を失わせない大切さと成長を見守る必要性について理解を頂きました。

現場の人たちは、経営者の言葉以上に、その姿勢をよく見ています。本気で現場を信じているのか?責任を現場に押しつけていないか?そうした点は、必ず現場に伝わります。「任せる」と言いながら細かく口を出し続ければ、現場は指示待ちになり、積極性を失います。また、挑戦の結果としての失敗を責めれば、現場は挑戦そのものを避けるようになります。反対に、「任せる」と言い切り、失敗も引き受ける姿勢を見せれば、現場は自ら考え、動き始めます。もちろん至急カイゼンが必要な時や、遠回りが許されない状況もあると思いますが、いざそうなった時にこれまでどうしていたかが大きく影響すると言うことです。

このシリーズでも触れてきましたが、経営者が「問題の見方」を変えるだけでも、現場は大きく変わります。問題を「責める材料」として扱えば、現場は問題を隠すようになります。しかし、問題を「次の成長の種」として扱えば、現場は問題を進んで出すようになります。どちらの現場が強くなるかは、言うまでもありません。

私は、「社長が変わると空気が変わり、空気が変わると現場が変わる」と考えています。朝礼での一言、カイゼン発表会での一言、現場巡回での一言。現場の努力をきちんと見て、良い点を見つけて言葉にする。その積み重ねが、現場の実行力を高め、カイゼンの勢いを生み出します。コンサルタントとしてカイゼンを通じて経営を良くする仕事をしてきましたが、こうした関係性が築けている会社ほど、カイゼンは確実に前に進みます。

現場を変えるために、特別なノウハウが最初から必要なわけではありません。経営者自身が「現場を見る目」「現場の声を聴く姿勢」「人を信じる覚悟」を持つこと。それだけで、現場は少しずつ、しかし確実に変わっていきます。カイゼンとは仕組みが必要であると同時に、人の姿勢が大切でもあります。私は、「経営者の一言や姿勢が、現場に安心と勇気を与え、現場を変えていく」と思うのです。