脱力・カイゼントーク 第123回

カイゼンと経営の関係を考える 11 AI・DX時代でも必要な現場力

現場での日報記録や設備のデジタル化が進み、これまで人が手作業で行っていた作業や測定、記録、監視といった工程の多くが自動化されるようになりました。その結果、生産性も品質も大きく向上し、「デジタル化は成果を生む」という実感を持つ経営者も増えています。しかし、ここで必ず押さえていただきたいことがあります。従来のカイゼンでは品質(Q)・コスト(C)・納期(D)目標の達成がゴールということが普通でしたが、DXの時代ではそこはゴールではなく、中間点です。人の作業によって情報収集していた時代では得られなかった生産の過程で生まれる膨大なデータを活用し、経営そのものを強くするところまで使い切るのが、昨今のデジタル化が持つ能力の活用です。

ところが残念なことに日本の現場では、Q・C・Dの目標が達成された段階で満足してしまい、データ活用にまで至らないケースが多く見られます。「設備がデジタル化されたのだから、現場はデータを分析してカイゼンしてくれるだろう」と期待する経営者もいますが、実際にはこれまでそのようなデータを扱った経験がない現場では、急に高度な分析を求められても対応できません。

ある会社では、社長判断で旧来設備をすべて最新のデジタル化された設備に更新しました。その結果、生産性・品質は向上したものの、データ活用については、これまでそのような経験がなかった現場はデータの見方も使い方も分からず、不良品の発生条件(温度・湿度)や個人の能力差を平準化する人員配置などせっかくのデータが宝の持ち腐れになってしまいました。この例が示すように、デジタル化はトップが突然導入するのではなく、「現場が何を知りたいか」「どんなカイゼンができるのか」を理解する過程を踏んだ上で進めることが不可欠です。

デジタル化によって得られるデータは、現場だけでなく経営にも大きな価値をもたらします。例えば、不良や故障の発生や材料歩留が都度記録されていれば、製品個々のコスト計算をリアルタイムで行うことで利益率の低い製品を見極める経営判断にも使えます。寸法計測結果から工具寿命を予測して、不良を減らし、切削工具や材料在庫の圧縮によりキャッシュが増えるといった財務上の効果も見込めます。全ての設備の稼働状況を把握することで、人と設備の総合的な生産性を向上させ、生産能力の拡大と労働生産性向上が望めます。つまりデータは、現場作業と経営をつなぐ新しい共通言語であり、会社全体を動かすことにもなるのです。

新たな設備の稼働状況をスマホやタブレットに反映させることで、現在の稼働率も過去の推移も平均値との比較も、すべてリアルタイムで確認できます。さらには、その製品が黒字なのか赤字なのか、どの工程がボトルネックなのかといった経営情報まで自動計算で表示されます。一昔前では1日がかりの作業がほんの数秒で「今の情報」と「経営の数字」がひとつにつながる時代が来ているのです。

そして忘れてはならないのは、AIやデジタル化がどれほど進んでも、現場カイゼン力が要らなくなるわけではないということです。「これまでのフィジカルなカイゼン」から「情報分析、対応、カイゼンというDX時代のカイゼン」へという進化を迎えむしろ重要性は高まっています。データが示す「何かおかしい!」「なぜこうなるのか?」の数値を読み取り、「どうカイゼンするか」を考えるのは現場の知恵であり、AIはその判断材料を提示する存在にすぎません。最終的にカイゼンの方向を決めるのは、やはり現場の人なのです。

デジタル導入の本当のゴールは、生産性や品質、納期のカイゼンにとどまらず、データを使って売上を伸ばし、利益を高め、キャッシュを増やすといった経営成果にまでつなげることです。そのためには、経営者がDXの意味を正しく理解し、現場と経営の視点をつなぐ役割を果たす必要があります。また、現場の人も「データから何が読み取れるか」を考え、機械の使い方を自分たちで工夫する姿勢が求められます。

AI・DX時代のカイゼンとは、現場力とデジタルを組み合わせながら、経営を強くする新しいカイゼン活動です。今こそ、日本の現場力がデジタルによってさらに引き立つ時代だと感じています。