
先日、工作機器を製造するK社のカイゼン発表会で、非常に印象的な出来事がありました。製品の性能を左右する重要なプレートの平面度を、ハンマーを使って調整する工程があるのですが、強く叩きすぎて傷をつけてしまい廃却になることがありました。現場はその対策として、ハンマーの形状を工夫して傷がつきにくいようにカイゼンしたと発表しました。すると社長は、「そのカイゼンも大切だが、平面度が最初から正しく出る『良いつくり方』を考えなければ、我が社の未来はない」と強い口調で指摘されました。普段穏やかな社長の言葉に現場は驚きましたが、この一言をきっかけに、これまで見えていなかった問題が一気に表面化したのです。
その場で各工程の担当者が意見を出し合ったところ、それまでは反りやねじれが許容範囲内ならば「良し」としてしまい、数値として記録していなかったという大きな問題が浮かび上がりました。そこで計測治具を作り、工程毎の品質結果を数字で見える化したところ、素材段階から最終加工工程まで、すべての工程に小さなバラツキがあり、そのバラツキが最終工程に結果として大きく影響して平面度が出ない原因になっていることが判明しました。すると各工程からカイゼン案が次々に出され実行され、ハンマーの回数も強さも大幅に減り、品質も生産性も向上しこの結果に社長はとても喜びました。問題を共有し、全員で向き合ったことが成果につながった好例です。
多くの会社では「問題が多い現場=悪い現場」と捉えがちです。しかし私は、「問題があるのに、それを問題として認識できていない現場=危険な現場」であり、「問題が見えている現場=強くなる現場」だと感じています。「問題はありません」と答える現場ほど、実際に現場を歩くとムダやムラが多く見つかります。一方、「問題だらけです」とメモを示してくれる会社は、確実に良くなっていきます。
では、どうすれば問題が見える組織になるのでしょうか。
第一に、「みんなが問題を出せる環境」を整えることです。多くの現場では、「正直に言うと怒られるのでは」「やらされるのでは」という不安があり、問題が表に出てきません。そこで私は経営者に「実行したカイゼンを褒めるだけでなく、時には社長ご自身も問題を見つけてください」とお願いしています。その上で、「よく気づいてくれた」「ここまでまとめてくれて助かった」と声をかける。カイゼン案が未熟でも構いません。大切なのは、“問題を出す”姿勢を評価することです。
次に、問題の見える化を仕組みとして行うことです。日々の不良数をホワイトボードに書き出す、段取り時間や機械停止時間をグラフにするなど、結果を目に見える形に残す工夫を続けると、「なんとなく気になること」が「数字で示された問題」に変わります。すると議論は、「犯人を見つける」方向ではなく、「どう改善すれば良くなるか」という建設的な方向に向かうようになります。
カイゼンを実行すると、新しい取り組みほど、最初はミスが出るものです。先に示した事例のように、時には強くいうことも必要ですが、ここでは注意が必要です。叱るべきは「失敗そのもの」ではなく「視野が狭くなりカイゼンをしないこと」「失敗を隠すこと」、評価すべきは「早く実行すること」です。さらに、経営者が「問題解決の過程での失敗は必要だ」と明言することも欠かせません。
私は「ここが困っています」「こんなムダがあります」と遠慮なく話してくれる現場が好きです。「問題がある現場は強い」と言うのは、見えていなかった問題が見えるようになり、みんなで向き合える現場は必ず強くなるという確信があるからです。カイゼンとは問題をなくす活動であると同時に、「問題が自然に浮かび上がる組織」をつくる活動でもあります。
問題がよく見える現場をつくること。その積み重ねが、強い現場と強い経営を育てていくのだと思います。