脱力・カイゼントーク 第110回

改めてカイゼンとは何か?を考える
第7回 デジタル化とカイゼン

これまでにもデジタル化については何度か触れてきました。今回はあえて大括りに、「現場のカイゼン活動」と「デジタル化」の関係を改めて考えてみたいと思います。

いまやデジタル化は「できればやった方がよい選択肢」ではなく、「やらなければ競争に勝てない」必須の取り組みになりました。かつては、ITやシステムに疎くても現場の工夫と努力で何とかなった時代がありました。しかし今は、これまで現場で培ってきたカイゼン力を前提に、デジタルツールを活用できるかどうかが生産性や競争力に直結します。やらないこと自体がリスクになっているのです。

そのうえで、デジタル化には、作業を速め、自動化し、大量の仕事をシンプルにこなすという明確なメリットがあります。これを通じて、現場の生産性と競争力を継続的に高めていくことこそが本来の目的です。

ピーター・ドラッカーは「IT革命がやったことは、昔からあった諸々のプロセスをルーティン化しただけだ」と語っています。つまり、人が情報を集めたり計算したり操作したりしなくてもよくなり、常に「今」の情報に基づいて判断できる――これがデジタル化の最大の力です。

とはいえ、私は現場カイゼンを支援してきた立場から、外部任せのトップダウン型のデジタル化には慎重です。ITベンダー主導で導入されたシステムが現場の実情と合わず、結局使われなくなる例を多く見てきたからです。せっかく導入しても操作が煩雑であったり、形ばかりのデジタル化で終わってしまいます。加えて、外部依存は必要以上の性能もあり費用面の負担も大きくなりがちです。

そこで大切なのは、「現場で使いこなせて、育てていけるデジタル化」だと考えます。デジタル技術は一度導入して終わり(完成)ではありません。現場の担当者が自ら関わり、小さな成功体験を積み重ねながら、ツールを最適化させ成長させていく――そのプロセスが大きな成果を生み出します。

たとえば、精密センサを組み立てるA社では、技術部がカメラを使った表面検査装置を開発しました。人の目では判定が難しい部分を自動で検査できるようになり、一定の効果が認められ、正式に導入されました。しかし、当初期待していたほどの精度には届かず、改善の余地が残っていたのです。

そこで、実際に装置を使い始めた現場作業者たちがカイゼンに取り組みました。検査結果に影響する光の強さや当て方、感度調整などを何度も試し、生産の合間にデータを取りながら最適な条件を探し続けたのです。その積み重ねによって、従来は限界と考えられていた水準を突破し、「できたら良いが、さすがに無理だろう」と思われていた精度を実現しました。

技術部が「これで完成」とみなした段階では、装置の性能は「まあまあのレベル」にとどまっていました。しかし、それを引き継いだ製造部門が改良を重ね、さらに高い段階へと育て上げたのです。その背景には、現場の人たちが長年にわたり、微細な表面傷を見逃さないよう光の色・強さ・角度を工夫してきた経験とノウハウがありました。それがデジタル検査の性能向上に直結したのです。デジタル技術を現場が自ら使いこなし、飛躍的に精度を高めるまでに育て上げた事例といえるでしょう。

こうした現場の挑戦を支えるには、経営者の姿勢も重要です。経営者はデジタル化の方向性を示すと同時に、「失敗を恐れず、まずはやってみよう」と伝えることで心理的安全性を確保し、ボトムアップ型の取り組みを後押しします。

また、現場主導のデジタル化を継続的に進めるには、人材育成が欠かせません。特に、現場とITを橋渡しできる人材――つまりデジタルの基礎知識を持ち、現場の課題と結びつけて考えられる人が社内にいれば、取り組みは確実に前進します。システム導入やカイゼンの場面でも「現場にとって本当に使える仕組み」を考える力が生まれ、日々の業務に定着しやすくなります。さらに、仕組みの規模や複雑さによっては外部の専門家やベンダーのサポートが必要ですが、この橋渡し人材がいれば外部との調整もスムーズになり、導入効果をより高められます。

だからこそ私は、現場の理解と納得を得ながら段階的に進めるアプローチこそ、最も確実な道だと考えます。導入することがゴールではありません。「現場で使いこなせて、育てて、成果を出し続けること」こそが、本当のゴールです。