
カイゼンの成果は、「コストが何円下がった」「生産性が何%上がった」「納期が何日短縮できた」といった数字で語られることが多いものです。数字は客観的で、成果をわかりやすく示す指標としてとても有効です。
しかし、だからといって「数字が良くなれば、それはカイゼンである」、あるいは「数字で示せる成果が出なければ、カイゼンと言えない」とまで拡大して解釈してしまうと、本質を見誤るおそれがあります。
私がそう考える理由は、大きく2つあります。
ひとつは、数字の改善が無理や部分最適の誤った判断のうえに成り立っているケースがあることです。たとえば、一時的に利益を出すために在庫を過剰に積み増した結果、かえって大幅なコストアップになったり、コスト削減を目的に安価な部品へ切り替えたことで、後になって品質問題が発生してしまったり、生産を間に合わせるために残業時間を大幅に増やすというような例です。表面上は数字が良くなっているように見えても、現場に無理を強いていたり、全体最適を無視していたりする場合、それはかえって組織の健全性を損ないかねません。
もうひとつは、数字では表しにくい「人や現場の成長」こそが、会社を良くする上でとても重要なカイゼンの成果であるという点です。たとえば、「社内のコミュニケーションが良くなり、対応力や速度感が向上した」「整理整頓の意識が高まり、繁忙期でも現場が散らからず品質や生産性が乱れなくなった」「長期にわたって、スムーズな働き方が維持されるようになった」といった変化は、すぐに数字には現れないかもしれませんが、確実に経営を良くしていく「小さな前進」であり、次のカイゼンの土台にもなります。こうしたカイゼンは数値化しにくいですが、確実に会社を支える力になります。
そこで私は、そのようなカイゼンを数字での評価だけではなく、「誰のために、どのように良くなったのか」という視点で評価することが大切だと考えています。その理想形として私が活用しているのが、近江商人の理念として知られる「売り手よし・買い手よし・世間よし」の「三方よし」です。それを製造業に当てはめて、「会社よし(経営が良くなる)・現場よし(働く人がやりやすくなる)・お客様よし(製品の質や納期に満足する)」の三方から評価して真のカイゼンと判断しているのです。
たとえ数字で成果が出ていても、それが現場に過度な負担をかけた結果ではないか、本当にお客様の満足につながっているかなどを問い直す必要があります。また、これからは環境配慮や法令遵守など、社会的な責任の視点も見逃せません。カイゼンが会社だけではなく、働く人やお客様、さらには社会全体にとっても意味のある活動になっているのか。こうした広い視点を持ってこそ、「本当に良くなった」と自信を持って言えるのではないでしょうか。
数字にこだわるのは悪いことではありません。むしろ、成果として数字に表れることは大切です。ただし、それが唯一の判断基準になってはいけません。数字の背後にあるストーリー、現場の成長、従業員の満足、顧客の信頼──そうした「見えにくい価値」にも目を向けることが、これからの時代に求められるカイゼンのあり方だと私は思います。