脱力・カイゼントーク 第103回

経理部門に求められる資質

これまで、工場長や品質管理、購買といった、製造現場を支える人や部門の役割と資質について考えてきました。今回は経理部門に焦点を当て、その役割と求められる資質について考えてみたいと思います。

経理といえば、帳簿の作成や決算処理、税務対応といった、いわゆる「数字を扱う事務的業務」が思い浮かびます。しかし、経理部門の本質的な役割はそれだけではありません。経理は会社の「お金の流れ」を正確に把握し、全社的な視点から経営の意思決定を支える存在であり、現場のモノづくりとも深い関係性がある業務です。

私は時々、「原価低減」というテーマで講演会を行っています。参加者は製造業の工場長や管理監督者が中心ですが、毎回「原価に関する誤解」と題して、次のような質問をします。

「次の5項目は正しいでしょうか?」
1.社内で作る場合のコストより外注費の方が安い場合は、外注化した方がコストは下がる。
2.まとめて作る、まとめて運ぶと、コストは下がる。
3.高額な設備は優先的に使わないと損。
4.在庫は税務上キャッシュと同じ扱いだから、持っていてもよい。
5.コストを下げるには能率を上げると良い。

これらは一見正しそうに聞こえますが、実はすべて「場合による」が正解です。単純に計算上の単価だけで判断してしまうと、実際にはキャッシュフローを悪化させ、経営的に不都合な結果を招くこともあります。ところが、こうした本質的な理解を持っている人は意外に少ないのが現実です。つまり、多くの現場では、きちんと教えられていないのです。

この「教える役割」を担うべきなのが、まさに経理部門だと私は考えます。経理は単に数字を処理するだけでなく、その数字の意味を、ものづくりの現場にわかる言葉で伝え、判断基準を共有していく責任があります。

たとえば、購買部門が「まとめて買えば単価が安くなる」として大量発注を行った場合、確かに計算上は単価は下がるかもしれません。しかし、その結果、会社のキャッシュは在庫という形で固定され、倉庫に眠ってしまうことになります。現場から見れば「安く買えた」という成功体験かもしれませんが、経理から見れば資金繰りを悪化させるリスクです。その背景を現場に伝え、「なぜそれが問題なのか」を理解してもらう必要があります。

生産部門でも同様です。「前倒しして生産しておけば後が楽」として多めに仕掛品や製品を作り置くと、加工費や材料費が先に流出し、それが売上になるまでの時間が延びることで、経営の安定性が損なわれる可能性があります。こうした財務的な影響に気づいている人は少なく、やはり経理がその役割を果たすべきだと思うのです。

また、原価管理の面でも、経理の役割は重要です。現場で行われたカイゼンが「どれだけのコスト削減につながったのか」「利益にどう貢献したのか」を数字で示すことができれば、その成果は社内で共有され、現場のモチベーション向上にもつながります。逆に、正確な数字として現れなければ、せっかくのカイゼンも正当に評価されない可能性があります。これは管理会計だけでなく、財務会計からの裏付けが必要だということです。

さらに、経営判断の場面でも経理の存在は不可欠です。たとえば、高額な設備投資を検討する際には、表面的な効率だけでなく、回収期間や償却負担、資金繰りへの影響など、経理ならではの視点で助言することができます。固定費と変動費のバランス、外注と内製の損益分岐点などについても、冷静な財務的根拠が求められます。

このように、経理部門は単なる帳簿記録係ではありません。会社全体のキャッシュの流れを見守り、現場に寄り添いながら財務的な判断基準を伝え、経営全体の意思決定を支える“頭脳と橋渡し役”としての資質が求められます。

数字に強いだけではなく、全体を見渡し、現場に伝え、行動を変えていく力、これこそが、これからの時代に経理に求められる本当の役割ではないでしょうか。