
課長、パートタイマーと人材育成について考えてきましたが、今回は「多様な人材が混在する現場」でのカイゼンと経営の関係について考えてみます。
かつて日本のモノづくりの現場には、ある特徴がありました。それは「均一性」です。正社員が中心で、日本人が中心、教育水準も価値観も生活背景も大きくは違わない。全員が同じ場所、同じ時間で、同じやり方で働く。その結果として、標準作業を徹底し、バラつきをなくし、品質を向上させることができました。古い話ですが、私が社会人になった50年前の製造現場は、ほとんどが正社員だけで構成された職場でした。
この均一性は、時代背景を踏まえると理にかなっていました。当時の日本は、欧米が開発し先行していた車や家電などの性能に追いつく「キャッチアップ型」の経営でした。正解が見えている中で、その正解に近づくには“いかに正しく再現するか”が何より重要でした。そこで「全員が同じやり方を徹底する」ことそのものが、経営戦略でもあったのです。
しかし、今の現場には、外国人材、パートタイマー、シニア、短期派遣人材など、さまざまな立場の人が働いています。かつてのように「全員が同じ」という前提は、もはや存在しません。
同時に、企業が置かれている環境も変化しています。市場は成熟し、技術も顧客ニーズも急速に変わっています。製品を上手に作るだけでは勝てず、新しい価値そのものを創造しなければ生き残れない時代です。つまり「キャッチアップ型経営」から「価値創造型経営」へと、経営スタイルの転換が求められています。
そこで重要になるのが「多様性を活かしたカイゼン」です。多様な人材が持つ異なる視点や経験は、従来の延長線上では気づけなかったムダや工夫、新しい価値のきっかけにつながります。均一性の時代は「ひとつの正解を守る」が強さでしたが、今は「違いを持ち寄る多様性を活かし、新しい答えを生み出す」ことが競争力となっています。
ただし、ここで「均一性が不要になった」ということではありません。安全・品質・納期を守るための標準、ルール、見える化、手順の徹底は、これまでと同様に必要です。それができた上で初めて、多様性が価値へと変わります。つまり、現場の守りは均一性で固め、現場の攻めは多様性で広げる。これが、これからのカイゼンと経営のあるべき姿ではないでしょうか。
守りの均一性を得るのに必要なのは、「人員構成の違いによって起きる問題をなくす」仕組みづくりです。例えば写真や動画、図解による手順書など、伝える人や言語能力に左右されない「見える化された共通の作業基準」を整えることが、多様な現場での共通言語となります。最近はスマホ撮影や簡易編集、翻訳ツールなど無料で使えるものが多く、便利さは昔とは比べものになりません。過去にやったけど上手く行かなかったといった経験から停滞している職場を見ることもありますが、ぜひ改めて活用してほしいと思います。
多様性を攻めの力に変えることについては、多様な人材がいる現場を「やりにくい現場」ととらえるのではなく、「伸びしろの大きい現場」と考えます。得意・不得意に合わせた役割分担や、小さな単位で仕事を完結する編成は、互いの力を引き出し合う形をつくります。また、雇用形態や国籍にとらわれずカイゼンに参加できる仕組みづくりも大切です。私はチョコ案の活用を勧めていますが、実行済みカイゼンの写真付き報告であれば、日本語が不十分でも参加できます。そこから徐々に、異なる立場の人が意見を出し合い、目的に向かってすり合わせをする「場」へと育てていくことができます。
時代が変わっても、カイゼンの価値は変わりません。ただしその対象は、作業手順や動作だけにとどまらず、人の多様性を活かす「場のつくり方」へも広がっているということです。均一性の時代に培った「強い現場運営力」と、多様性の時代に必要な「新しい価値を生む力」の両方を備えた企業こそ、カイゼンの力を経営の強さへとつなげていけるのだと私は考えています。