
今回は、人材育成をテーマにカイゼンと経営の関係を考えてみたいと思います。
人材育成で経営者がするべき大事なことは何でしょうか。人手不足の中で技能の継承も必要ですが、世の中の変化が激しい今、社長が目指す変革を実務で支えてくれる中間管理職の育成も、きわめて重要なテーマです。今回は、課長の育成のテーマを考えて参ります。
40年も前の話ではありますが、私は当時勤務していた会社で課長昇進のタイミングが近づいた時、「同期に負けないで早く課長になりたい」と思っていました。課長という仕事に憧れを持ち、到達点として目指すのが当たり前だったのです。大半の同期の仲間もそうであったと思います。ところが今は、「課長にはなりたくない」という声が少なくありません。
理由を聞くと、「責任が大幅に増えるのに給料はそれほど上がらない」「残業代がつかなくなる」「人の管理や教育の負担が大きい」「ノルマや報告が増えて自分の仕事に集中できない」といった声が聞こえて来ます。中には、課長になった途端に手当はつくものの残業代がなくなり、実質的に収入が下がるケースもあります。これでは誰も課長を目指そうとは思いません。結果として、「一般従業員→班長→課長」と段階的に育つ流れが、班長やリーダーのところで止まってしまうのです。せっかく育ってきた班長が課長になりたくないので退職してしまったという話も聞きました。経営補佐職である課長を目指す人が減ることは、企業にとって深刻な課題です。
実は、私自身、課長になったときは大きな喜びと同時に、果たして自分にその役割が果たせるのかという不安も感じ、事前の教育カリキュラムに大いに期待をしていました。ところが驚いたことに、肝心の管理職教育の内容が曖昧で具体性に欠けていました。査定のやり方や面談の方法はカリキュラムになく、大先輩の経験談を聞く程度で体系的ではありませんでした。「これまで課長の下で働いてきたのだから分かるだろう」という暗黙の前提があったのかもしれません。しかし、それでは人によってやり方にばらつきが生じ、組織の力は安定しません。カイゼンの視点が必要だと思いました。
とはいえ、中小企業で大企業並みの研修制度を整えるのは現実的ではありません。だからこそ、日常の業務の中で自然に学べる仕組みをつくることがいいと思います。まず、課長の役割・権限・優先すべき考え方を簡潔に示し、管理業務と人づくりのバランスを取れるようにします。次に、会議や報告のムダを減らして考える時間を確保します。さらに、うまくいった事例は全員で共有して再現可能にし、評価は複雑な制度に頼るのではなく、「実践でできたことを認められて育つ」姿勢を徹底します。こうした小さな積み重ねが、「課長になってもやっていける、なって良かった」という安心感につながります。
同時に、待遇の見直しも必要です。責任が増えるのに給料が下がるのでは、誰も挑戦しようとしません。課長という立場にふさわしい評価を整え、成果だけでなく、部下の育成やチームのカイゼンといったプロセスも正当に評価することが大切です。課長が誇りを持って働ける環境が整えば、若手はその姿を見て「自分もああなりたい」と思うようになります。まさに課長こそが、会社の文化を次世代へつなぐ存在です。
結局のところ、人材教育の目的は単に何かを教えることではなく、「人が育ち続ける仕組み」を持つことです。経営者が課長を単なる管理者にとどめず「経営を支える人財であり、人を育てる要」として位置づけ、その成長を支え、待遇と評価のカイゼンをセットで進めることが、課長になりたい人を増やし、人材育成を止めないための第一歩だと思います。