脱力・カイゼントーク 第116回

カイゼンと経営の関係を考える 4 在庫削減カイゼン

今回お話しする在庫削減カイゼンの目的は、単に在庫数を減らすことではありません。在庫を減らしても、納期を守り確実に出荷ができるセットで成果を上げる仕組みをつくることが本来の狙いです。在庫を減らすことにより、生産遅れなどの事態が起きやすくなるので、モノづくりの精度を高め、トラブルを防ぐ力を磨く必要があります。このように在庫削減は決して容易ではありませんが、成功すれば会社の体質を一変させます。倉庫が整理され、探す・待つといったムダが消え、リードタイムが短縮され、営業力が強まります。資金が動き出し、経営の流れが良くなるのが在庫削減カイゼンの本質です。

私が以前、ある会社で目にした忘れられない場面があります。社長が「在庫を減らそう」と指示を出したとき、現場の担当者がこう言いました。「減らすのは簡単ですが、出荷が切れても知りませんよ」。この言葉を聞いたとき、私は社長の意図することが全く伝わっていないと感じました。

在庫を減らす目的が「数字を小さくすること」ではなく、「経営を強くすること」であるという根本の考え方が共有されていなかったのです。多くの人が、「在庫さえあれば、問題はなくなる」「在庫がないから、問題が起きる」と考えがちです。確かに在庫があれば、その場しのぎの対応はできます。しかしそれは、問題を先送りしているだけであり、いずれ大きな問題として顕在化する可能性が大です。存在する問題を解決するきっかけがないので、いつまでもそのレベルに居続けることになるからです。

逆に、在庫がない状態では、トラブルを未然に防ぐ仕組みがなければ計画通りの出荷はできません。だからこそ、在庫削減は「問題をなくす仕組みづくり」そのものなのです。在庫を減らす過程で問題の芽を先に摘み、問題自体を起きにくくするのが狙いです。少ない在庫でお客様に十分応え続けられたとき、初めて「本当に強い経営」と言えます。

この成果は、現場の生産部門だけでは到底出せません。全部門参加が前提です。役割を整理すると、次のとおりです。

・製造は5Sと見える化を進め、段取り替えの技術を磨きます。
・技術は工程数を減らし、リードタイムが短くなる工程設計をします。
・生産技術は、突発的な機械故障を防ぐために予防保全を徹底します。
・設計は、共通部品化やモジュール化、標準化を進め、在庫点数を減らします。
・購買は、サプライヤーと連携して小口・高頻度納入を実現します。
・生産管理は、リードタイム短縮や手待ちのない生産計画作りをします。
・品質管理は各工程内で品質を保証する作り込み技術を向上させます。
・営業は、急な変更や不確定要素を減らし、顧客と共有した納期を守ります。

そして経営者は、各部門が安心してチャレンジできるよう、目的を明確にし、失敗を責めずに支えることが大切です。

このように、在庫削減カイゼンは全員参加で進める経営改革です。各部門がそれぞれの立場から在庫を減らしても困らないカイゼンを実行することが必要です。そしてそのためには、「在庫が少なくてもお客様に十分対応できたら、それこそ本当にすごい経営だ」という考えを全員が理解することが出発点になります。在庫がなくても安心して生産できる仕組みをつくることが、結果としてお客様満足と利益を両立させ経営を支えます。

私はコンサルタントとして、この在庫削減カイゼンがとても好きです。理由は2つあります。1つは、全員参加で取り組むので成果が大きいこと。2つ目は、現場で在庫という現物を通じて、現場の人と経営者が現実的な答に到達する3現主義のカイゼンのやり方になるからです。ここには、カイゼンの面白さと手応えがあります。