現場カイゼンレポート 第七回

一定の機能に絞った専用機化による設備の内製化

ヘルメットを生産するA社でカイゼン会をしていた時のことです。ヘルメットの製造には樹脂成型したツボのような形の原形と呼ばれるモノから、首と顔の部分を切り取り、耳の部分に孔をあける工程があり、それを1台のプレス機で段取り替えをしながら加工していました。1回の生産ロット数は50個だったので、首、顔、耳それぞれの部分を、加工するたびに段取り替えをして生産を行っていました。プレス機の動きは速いので、1ロットの生産はすぐに終了するのですが、その後の段取り替えで長時間停止することを繰り返していたので一日500個を作る計画に対して定時では400個しか作れず残業や休日出勤で対応していました。もしプレス機があと1台あれば定時で終えられるのですが、当時同社ではカイゼンの予算が少なく高価なプレス機を買うことはできませんでした。

皆でこの作業の様子を見ていた時に、段取り替えの時間ばかりが目に付く残念な仕事ぶりに業を煮やした参加者の一人が、「ハサミやキリを使って手で加工できるものなら手分けしてやってしまいたいね」と声を出しました。以前からずっとプレス機を使って来たので、皆はこの工程はプレス機でやるものと思い込んでいたのですが、その発言を聞いて、確かにもしハサミで切れるモノなら、スピードは遅くても十分に役に立つと思いました。何故かというと、この機種に求められている生産数は1日500個であり、現行のプレス機の数秒という短い加工時間は必要がなかったからです。もちろん衝突や転倒の際の大きな衝撃を吸収する構造のヘルメットですからハサミで切ることはできません。しかし、プレス機のようなスピードが要らないのであれば何か別の方法がありそうだ...と気付いたところからいろいろなアイデアが出始めました。

アイデアの一つに、「もし段取り作業をしないで済むなら急ぐ必要はないので、それぞれの金型がセットされたゆっくり動く専用の機械を作れないか」というアイデアがありました。1日の生産量が500個ということは、それぞれが首、顔、耳の専用設備で、一個当たり約50秒のサイクルでゆっくり切断をしてくれればいいことになります。皆は段取り替えをしないで、次々とワークを移動させていく流れ作業で3工程をカバーするイメージを頭に浮かべました。一般のプレス機のような高速の汎用設備を自分たちで作ることはできませんが、既存のプレス金型を使って油圧シリンダーでゆっくりジワジワと圧力をかけて切断する機械なら作れるからです。そのように考えて既存の金型を使った専用のゆっくり切断機を2台自分たちで作成し、これまでのプレス機と合わせて3台で段取り替えをしないで作るという目的を達成することができました。もし高額なプレス機を1台買っていたら、段取り替えは減るとはいえ相変わらず必要でした。ところが設備を内製化したことで、段取り替えがゼロになり、500個を定時で楽々作れるようになり、かかった費用は10万円以下でした。大幅なコストダウンができたことは言うまでもありません。まさに「金で逃げるな、チエで勝て!」を実現されました。このようなカイゼンを繰り返してA社は当時経営的に厳しい状況にあったのですが、その後見事に立ち直り、現在では上場企業となっています。

プレスという高速で動く汎用の設備を自分で作るのは無理ですが、低速で特定な動作でヘルメット専用の仕事をする機械ならば自分たちで作れるのです。汎用機を作るのは専門メーカーでないと難しいが、専用機なら自分たちで作れるという発見をしたのです。