モノづくりの現場探求 第二十六回

モノづくりにおけるハラスメント 3

ハラスメントについて、1回目では増え続ける新種のハラスメントについてまずはその内容を知ること、そして2回目では仕事をきちんと教えているかの確認についてと「叱ると怒るの違い」を知るという切り口で、お話しいたしました。3回目の今回では、カイゼンする時に注意すべきハラスメントにはどのようなものがあって、どう対応するかを考えたいと思います。

私のカイゼンのやり方は、経営者や管理者、そして一般従業員も一緒に現場で現物を見ながらワイワイガヤガヤと全体最適の議論をして実行することです。しかしワイワイガヤガヤも一つ間違えると上から目線で指示をするパワハラや、反論できない正論で意見を抑え込むロジハラ(ロジカルハラスメント)になる可能性があります。

A社のカイゼン会で、皆でワイワイガヤガヤと議論をしていた時のことです。ある人が斬新なアイデアを出したところ、そこの現場職長のBさんが即座に「できません!」と強く拒否されました。一瞬、その場にネガティブな空気が流れ、まずいと思った私はBさんができないと言った理由を聞くことにしました。話を伺うと、既に大忙しだったBさんの職場にそのカイゼンの仕事が一方的に押し付けられそうだと感じ、できないと言ったことが分かりました。今回は、そこに参加していた他部門が快く協力してくれることになり、Bさんもこれならできそうだと思うレベルにまで計画を具体化できました。これが良いきっかけになって、全部門が協力する全体最適のカイゼン活動ができるようになりました。

その時、私にはもう一つの選択肢がありました。それは私が「世の中の変化が大きいので、カイゼンをしなければ我社は置いて行かれることは知っていますよね?できない理由を探しても意味がありません。やる方法を考えるべきではないですか!」とBさんを追求することです。私の発言は正論であり、Bさんは反論できず、「分かりました」と言わざるを得ないでしょう。しかし実際には自部門だけではできない内容なのでその後大変な苦労をすることになったはずです。これは正論をぶつけて相手を押さえつけるロジハラ(ロジカルハラスメント)です。そしてBさんの部門だけでやることになればそれはパワハラともいえるでしょう。Bさんを苦しめるだけでなく、会社にとってもカイゼンが遅れるので良いことは一つもありません。

もう一つ、お話しします。みんなでワイワイガヤガヤといっても、部長が部下に対して「アイデアを出せ!」と命令してしまえば、みんなでやったことにはならず、場合によってはパワハラにもなるでしょう。代わりに部長が率先垂範してアイデアを出すがそれがあまり優秀ではなく、部下の方が素晴らしいアイデアを出す。そこで「君は素晴らしいなぁ」と部長が頭を掻いて部下を褒めるような状況があればパワハラは起きないでしょう。私自身はしばしば現場の方たちにカイゼンのアイデアで負けてしまうことがあります。しかし、意地を張らずに頭を掻いて負けを認めます。私としては少し悔しいのですが、明らかにこの方がうまくいくのです。立場の上下に関係なく「良いカイゼン」は「良いカイゼン」、そうでないカイゼンは「良いカイゼン」とは言えないからです。

ハラスメントにかかわる二つの現場事例をお話ししました。これからは引退する方々の技術・技能を次の世代に伝承することや、若い方々にも入ってもらうことが望ましいデジタル化の取り組みなど、高度なコミュニケーションが求められる仕事が増えると思います。すべての参加者が対等の目線で真のワイワイガヤガヤができるようになれば、それぞれの人の能力が更に引き出されて大きな飛躍に結びつくことでしょう。これを機会にハラスメントについてしっかり考え、恐れるのではなく、皆が協力し合ってのびのびと働けるような仕事のやり方にカイゼンして参りましょう。