脱力・カイゼントーク 第99回

品質管理者に求められる資質

品質管理の仕事は、製品が顧客の手に渡るまで、場合によってはその後も「この製品の品質は大丈夫か?」と問い続ける厳しさを伴います。品質を保証するとは、見た目の良さだけではなく、製品の持つ性能、安全性、信頼性すべてを含めた「企業の誠実さ」を形にする仕事です。だからこそ、品質管理者には、「品質に関しては一切妥協しない」という強い信念が求められます。時には、どれだけコストがかかっても、どれだけ納期に追われていても、「このまま出してはいけない」という判断をしなければならない瞬間があります。そのとき、誰かに遠慮したり、空気を読んで黙ったりしてしまえば、取り返しのつかない結果を生むことになります。品質管理者は、良い意味で“嫌われ役”を引き受ける覚悟が必要なポジションです。

しかし一方で、ただ「ダメなものはダメ!」と言うだけでは、現場からは「反対ばかりしている人」「現実を分かっていない人」と見られてしまい、次第に孤立してしまいます。そうなると、情報共有が進まず、肝心の品質リスクを事前に察知することができません。品質管理者に求められるのは、「厳しさ」と「柔軟さ」の両方です。「品質には一切妥協しない」という軸を持ちながら、現場と信頼関係を築き、歩み寄って対話していく姿勢が必要です。「このままでは品質に問題が出る可能性があるが、なぜそうなったのか、どうすれば現実的に対策できるか」を、現場とともに考えることが求められます。

たとえば、ある自動車部品製造会社の塗装工程で、高機能塗装が必要な新製品を初めて受注した際の話です。試作はうまくいったものの、量産では塗装に小さなゴミが混じる不良が多発し、初回出荷が危ぶまれました。検査部門は初期品質に妥協せず、厳格に合否判定を行いました。現場からは「このままでは納期が守れない」という心配の声が上がりました。

そこで品質管理部門は、まずは、設計部門に基準の確認をし、技術部門に設備の不具合がないかを調べた上で、現場の管理体制に原因があると推定しました。そして、ただ不合格の判定を出すのではなく、検査結果を詳細に分析し、2層目と3層目の塗装間でゴミの混入が多いことを特定し、現場に伝えました。現場リーダーと共に作業や環境を観察し、「ここを変えれば対応できる」と代替策を見出しました。さらに現場に入り込み、3S活動を一緒に実行してゴミ不良を解決し、無事納品ができました。この姿勢が現場の信頼を呼び、以降、品質管理に対する協力体制が強まりました。

このように、品質管理者にとって「伝え方」は重要です。「不良と判定されました」「NGです」とだけ伝えると、命令や責めに聞こえてしまうことがあります。大切なのは、「どのような状況で」「どの程度の不良が発生し」「どのような影響があるのか」といった、対策につながる具体的な情報を伝えることです。これが品質意識を社内に浸透させる第一歩になります。指摘を「カイゼンのヒント」として受け取ってもらうには、その背景や意図を丁寧に説明し、相手に納得してもらうことです。「何塗装目に問題がありそうなので、調べてくださいませんか?私も現場に行きますので、一緒に見せてください」といった、心の通う言葉も有効です。

「この品質管理者は信頼できる」と思ってもらえるのは、ただ現場に立ち会ったからではなく、検査のプロとして、3S活動にも積極的に関わり、具体的な指摘をしてくれる姿勢があるからです。「品質向上を共に目指す仲間」としての関わり方こそ、現場に信頼される品質管理者の姿です。

さらに、品質管理者には「品質の視点で全体を見る力」も求められます。工程内の検査だけでなく、出荷後の運搬や使用環境、顧客ニーズまで含めた広い視野を持ってこそ、本当の品質保証が可能になります。たとえば工程内では合格でも、ユーザー視点では不満が残ることもあります。そうしたズレを拾い上げ、設計や営業と連携して改善していく姿勢が、品質管理の価値を高めていきます。

品質管理者が目指すべきは「品質を守る孤高の存在」ではなく、「品質を通じて工場を支えるキーマン」です。品質とは単なる検査結果ではなく、会社全体への信頼を獲得する仕事です。その重要性を社内に伝え、巻き込み、共に品質をつくっていく姿こそ、これからの品質管理者に求められるものです。