脱力・カイゼントーク 第98回

工場長に求められる資質4 現場を守る責任感

これまでに、人が原因で問題が起きた場合に大切なのは、「何か起きた時にその人のせいにしない」ことや「一緒に考える」といった姿勢であるとお話ししてきました。現場の誰もが、「問題が起きても隠さずに報告していい」と思える環境を作ることで、安心感や自主性が生まれ、事故や不良を未然に防ぐ強いカイゼン力のあるチームへと成長していくことができるからです。

今回は、そうした人に起因する問題ではなく、「誰のせいでもないトラブル」に対して工場長がどのような姿勢で臨むべきかについて考えてみたいと思います。

工場の現場では、思い通りにいかないことが毎日のように起こります。突然設備が止まる、納期が間に合わない、欠かせない人が休む、材料が予定通りに届かない…。こうした事態は特別なことではなく、むしろ日常茶飯事といえるでしょう。

しかし、同じようなトラブルに直面しても、「混乱する現場」と「落ち着いて乗り越える現場」があります。その違いを生み出しているのが、「現場を守る責任感」を持った工場長の存在だと考えます。

「現場を守る責任感」とは、予期せぬ出来事が起きた時に、「どんなことであっても何とかする」という冷静な判断力を持ち、先頭に立って行動する姿勢のことです。もちろん、一人で解決できることばかりではありません。しかし、工場長がどっしりと構えていることで、現場の全員が安心し、冷静に動けるようになります。

トラブルの時に求められるのは、感情的にならず、落ち着いて原因を解明し、一刻も早く正常な状態に戻すことです。問題が起きたことに対して言い訳するのではなく、「これからどうするか」に全力を注ぐ。この姿勢こそが、現場全体の信頼を集め、結果として復旧のスピードも上がっていきます。

また、工場長が「現場を守る」という姿勢を日頃から貫いていると、部下たちも工場長の仕事ぶりを見てあるべき姿を学ぶようになります。問題が起きた時に隠さず報告する文化、トラブルが起きても慌てず対応する習慣、そして困難な状況でも前を向く姿勢、これらはすべて、工場長の行動によって育てられていくのです。

近年では、自然災害や感染症、あるいは政治による経済の変化など、製造業を取り巻く外部環境も大きく変化しています。これまで通りにいかないことが増える中で、現場の混乱を最小限にとどめ、正確に状況を把握し、的確に判断を下す工場長の役割は、ますます重要になっています。

もちろん、責任感だけでは解決できない場面もあります。ときには上層部に判断を求めることが必要になりますし、外部との連携も欠かせません。しかし、それでもなお、現場で最初に求められるのは、「この現場は自分が守る」という強い覚悟です。

責任感のある工場長がいる現場では、不安や混乱が少なく、むしろトラブルをきっかけにチームの結束が強まることさえあります。こうした現場は、トラブルへの耐性が高く、変化にも強く、最終的にはお客様に対しても安定した品質と納期を提供できるようになります。

現場の責任者として、すべてを完璧にこなせる人はいないと思います。だからこそ、「あの人がいるから、ここで頑張ろう」と思ってもらえるような存在になることが重要です。いざという時に、その信頼関係が総力の結集を生み出すからです。それこそが、これからの工場長に求められる「現場を守る責任感」なのではないでしょうか。

工場長という立場は、まさに「現場の最後の砦」です。だからこそ、「現場を守る責任感」を持ち続けることが、全体最適の視点を持つリーダーとして、もっとも大切な資質の一つなのです。