これまで「現場を見る目」「全体最適を考える視点」と、工場長に求められる資質についてお話ししてきました。今回はその続きとして、「人を育てる力」について考えてみたいと思います。
工場は、人が動かしています。どれだけ設備や仕組みが整っていても、最終的に製品をつくるのは現場で働く一人ひとりの人間です。だからこそ、工場長には「人を育てる」ことに本気で取り組む姿勢が欠かせません。
とはいえ、「育てる」とは単に作業を覚えさせることではありません。最初は動作レベルで教えることが基本です。そのうえで、自分の頭で考えて動けるようになることが次の段階になります。最初から全てを細かく教えすぎず、方向性だけを示して任せてみる。うまくいかなくても、すぐに答えを与えず、問いかけを通じて気づかせる。こうした関わり方が、考える力を養い、自律的な現場づくりにつながっていきます。
もちろん、ただ任せるだけでは育ちません。挑戦の機会を与えつつ、適切なフィードバックをすることが大切です。できたことや工夫したことを認め、「次はこうしてみよう」と前向きな声をかける。失敗しても頭ごなしに叱るのではなく、「なぜそうなったか」を一緒に振り返り、次の改善につなげる。こうした積み重ねが信頼関係をつくり、人は安心して学び、成長していけるのです。
では、どうすればこのような指導ができるのでしょうか。
そこで私は、山本五十六の言葉をよく紹介しています。「やってみせて 言って聞かせて させてみて ほめてやらねば 人は動かじ」。この言葉に、仕事を教える基本がすべて詰まっていると感じます。まず実際にやってみせる。次に、なぜそうするのかを言葉で説明する。そして実際に相手にやらせてみる。そのうえで、必ず良かった点を見つけて褒める。この一連の流れがなければ、人は納得して動いてくれません。頭で理解していても、体が覚えていない、やる理由に納得していない、気持ちが乗らない――そうした状態では現場はまわりません。
人を育てるには時間がかかります。すぐに結果が出るわけではなく、じっくり見守り、関わり続ける忍耐も必要です。しかし、工場で育った人材がやがて周囲を引っ張り、後輩を支えるようになったとき、現場は確実に強くなっていきます。一人でできるカイゼンには限界がありますが、人を育てることで、工場全体の力は何倍にもなっていくのです。
人を育てる力とは、特別なスキルではありません。相手をよく見ること、声をかけること、できたことを認めて褒めること、そして失敗しても見捨てずに寄り添うこと。その一つひとつの積み重ねが信頼を生み、育成の土台を築いていきます。
これからの時代、少子高齢化が進む中で、現場の人材をどう活かし、どう伸ばしていくかがますます重要になります。AIやロボットが一部の作業を代替するようになっても、「人を育てる」役割は人にしかできません。だからこそ、工場長自身が部下や後輩を育てる責任と喜びを持ち、日々の現場でその姿勢を見せていくことが大切なのです。