脱力・カイゼントーク 第94回

工場長に求められる資質 2 全体最適を考える

前回は、工場長に求められる大切な資質として「現場を見る目」を取り上げました。今回は、それに続くもうひとつの重要な資質、「全体最適を考える」ことについてお話ししたいと思います。

現場には、品質、納期、コスト、安全といった複数の重要な指標が存在し、それらを正常な状態に維持管理するのが仕事です。もしどれかに問題が出たら、ただちにカイゼンすることが必要であり、そのためにそれぞれが部門ごとに最適を目指して取り組んでいます。一方で、現場全体を預かる工場長には、それぞれを個別に最適化するだけでなく、全体のバランスを見極めて「何を優先すべきか」を判断する力が求められます。

全体最適とは、現場全体をひとつのシステムとして捉え、全体の流れをよくすることに力を注ぐ姿勢です。そのためには、目の前でうまくいっているように見えることが、本当に全体にとってプラスになっているのかを常に問い直す視点が必要です。

たとえば、ある工程だけが非常に高い稼働率を保っていたとしても、その後工程がボトルネックであり、滞留が起きていれば、それは「部分最適」にすぎません。同様に、納期に遅れそうで慌てて作業を進めた結果、品質が落ちて不良が発生してしまう。コストダウンを狙ってまとめ買いやまとめ作りをしたものの、不動在庫が増えてしまう。これらも全て部分最適であり、それによって悪化した部分も出てしまっています。このようなことは、どの現場でも起こりうるものです。

だからこそ、どれか一つの指標だけを追い求めるのではなく、「今、何を優先すべきか」を冷静に判断し、それを現場にしっかり伝えることが工場長の大切な役割となるのです。

前回ご紹介した、始業直後に作業者に「おはよう!」「元気?」と声をかけていた工場長は、朝礼でもその日の生産予定だけでなく、「昨日どこにムダがあったか」「今日はどこに人を集中させるか」といったことを現場全体に共有していました。その話しぶりには、単なる数字の報告だけでなく、工程の流れや部署間の関係性を意識する視点が感じられ、現場のメンバーも自然と全体を意識し行動するようになっていました。

このような全体を見る力を育てるには、現場に出てモノの流れを見ることはもちろん、他部門との連携を図りながら意思決定をしていく経験が必要です。ときには、生産の効率を多少犠牲にしてでも、営業や調達、品質保証など他部署と足並みをそろえる判断が求められる場面もあります。目の前の数値にとらわれず、「お客様にとって最善か?」「会社全体にとってプラスか?」といった視点で考えられるかどうかが、工場長の力量を大きく左右します。

このときに大切なのが、「決断する力」です。現場では、理想的な条件がすべて揃うことはまずありません。むしろ、いくつもの矛盾を抱えながら判断を迫られることが日常的に起こります。たとえば、「昨日不具合が起きたので今日は品質を最優先にして検査を増やす」「今日は機械故障で生産が遅れていて、このままだと残業になってしまうので、他部署からの応援を実施して、定時生産でできるようにする」といった判断を、瞬時にする必要があります。

工場長がこのように、全体最適を意識しながらバランスの取れた判断と行動を重ねることで、現場には一貫性と安心感が生まれます。「この人の判断なら納得できる」と現場が信頼し、自律的に動けるようになるのです。工場長が示す優先順位は、現場全体の意思決定の基盤となり、日々の行動にブレのない指針を与えるようになります。

全体最適の力は、前回の「現場を見る目」と同様に一朝一夕には身につきません。現場のリズムをつかみ、関係者の声を丁寧に聞き、時には耳の痛い現実にも向き合いながら、経験を通じて少しずつ磨かれていくものです。それでも、そうした意識をもって日々取り組むことで、工場全体のパフォーマンスは確実に高まっていきます。

工場長には、「部分最適」ではなく「全体最適」の視点で判断し行動することが求められます。全体を見渡し、現場の活動が経営にしっかりと貢献できるように導いていく。この視点こそが、これからの時代を担う工場長にとって欠かせない資質のひとつであると、私は強く感じています。