私の仕事の中の重要なテーマに、管理職の育成があります。かつては、責任を引き受けてリーダーになろうとする人材が多くいたように思えましたが、今は「責任を背負いたくない」「楽な仕事がいい」と考える人が増えるなど、人の意識や価値観も変わってきており、改めて今の時代に合った責任者の育成が必要になっています。そこで、これからの時代に必要な管理職について、求められる能力や育て方についてお話ししていきたいと思います。今回はモノづくりにおける管理職のトップといえる工場長について考えます。
モノづくりの現場で直接人・モノ・設備を預かる工場長には、経営者と現場の橋渡し役としての独自の役割が求められます。今回は、工場長としてどのような資質が必要なのかを考えてみたいと思います。
工場長に求められる資質とは何でしょうか。私は「現場を見る目」が最初に求められる資質だと考えています。品質や納期、安全などの問題が起こる前に兆しをつかみ、異常の芽を早期に摘み取る。これは単なる勘や経験だけではなく、5Sや標準作業を通じて「いつもと違う」を見逃さない力であり、日々の観察と対話の積み重ねによって磨かれていきます。工場長は決して事務所にこもる存在ではなく、毎日現場を歩き、現場・現物・現実の3現を通じて現場の状態を肌で感じ取ることが求められます。
「目」と言っても、「現場を見る目」は、作業や設備の状態を見るだけでなく、その背景にある変化の兆しや何となく気になる気配に気づく力も必要です。作業者の動きがぎこちない、道具の配置が違う、設備からわずかな異音が聞こえる…。そうした違和感を察知できるかどうかが、不良や事故を未然に防ぐカギになります。もちろん全て事前にというわけではなく、手待ちの発生や中間在庫の増減から、計画や指示に問題があることに気づくこともあります。
さらに、工場長は自分の立場の視点だけでなく、「現場の人の立場」で見る姿勢も大切です。作業者との対話を通じて、体調や気持ちの変化、困っていること、カイゼンの必要性を引き出していく。こうしたやりとりの積み重ねが、数字には見えない変化への感度を高め、現場の空気づくりにもつながります。
ある企業を訪問した際、工場長が始業直後に、作業者に「おはよう!」「元気?」と声をかけている姿を見ました。声や表情の変化にも目を配り、「小さな変化を見逃さないようにしている」という言葉に、責任感と現場への愛情を感じました。実際、その姿勢が作業者の安心感を生み、不良や事故の減少にもつながっていると実感しました。
私は工場長に「どうしてそのような視点が持てるようになったのですか?」と尋ねました。すると、以前の上司から毎日、「なぜこうなっている?」「いつからそうなっている?」「危険はないか?」といった問いを投げかけられ、鍛えられたと話してくれました。私自身も、現場で同様の問いかけを意識して行っており、大いに同感しました。
目で見ることができない変化を感じ取るには、意識して声をかけ、その反応から違和感を探る工夫も大切です。目配りとは、すなわち気配りであり、視覚だけでなく五感すべてを使って現場を感じることなのです。
「現場を見る目」は、特別な才能ではなく、日々の姿勢と習慣の積み重ねで身につくものです。そして、それを支えるのは、現場への敬意と、現場に立ち続ける覚悟です。
これからAIやデジタルがいくら進んでも、「現場を見る目」を持つ工場長の価値が失われることはありません。むしろ、現場の空気を感じ、人の変化に気づき、チームを動かす力を持つ工場長こそが、これからの現場を支えていくと私は確信しています。