脱力・カイゼントーク 第92回

失敗しないための準備

私は34年前にコンサルタントとして独立し、それ以来、ずっと現場カイゼンの仕事に取り組んできました。若い頃は体力任せに全国の現場を回り、夜遅くまで書類を作るのも苦ではありませんでした。しかし、70歳を超えたあたりから、以前は当たり前にできていたことが少しずつ難しくなってきました。体力の衰えを実感することもありますし、頭の回転も、若い頃のようにはいきません。

それでも私は、今も現場に通い続け、カイゼン指導の仕事を続けています。もう少しだけ、モノづくりカイゼンのレベルアップに貢献したいという思いがあるからです。日本の製造業は、世界での競争力を保つのが難しくなっています。その流れを少しでも食い止め、かつての勢いを取り戻すために、私のこれまでの経験や技術を活かせないかと考えています。

そのために私が大切にしているのが、「挑戦するための準備」です。年齢を理由に挑戦をやめてしまえば、衰えはますます加速してしまいます。今やりたいと考えていることは、若い時の力があってもできないかもしれません。だからこそ、日々の暮らしの中で体力・知力をつけるために、自分を整える仕組みを持つようにしています。

この姿勢に通じる言葉として、哲学者の中村天風先生の著書の中に「若い時は何もしなくても大丈夫だが、年をとったら鍛錬が必要だ」という趣旨の一節がありますが、まさにその通りだと実感しています。

まず身体の面の準備として、「しっかり歩くこと」を日課にしています。1日の目標は1万歩ですが、平均は12,000歩を超えています。また、週に一度は「心身統一合氣道」という武道の稽古に通い、全身を使って汗を流しています。これらはすべて、仕事を続けていくための基礎体力づくりです。

精神的な面では、不安や恐れとの向き合い方が課題です。年を重ねるにつれ、経験や知識が増えているにも関わらず、「これで本当に大丈夫か?」という思いが強くなっている気がします。しかし、それは誰かが解決してくれるものではありません。だからこそ、「準備」が必要だと考えています。不安に対して、できることをしておく。それが心の安定にもつながると信じています。

技術の進化にどう向き合うかも、大切な課題です。私がコンサルタントとしてスタートした頃、今のようなデジタル技術の進化は想像もできませんでした。けれど今では、クラウドやアプリ、デジタル機器の活用は、現場カイゼンには欠かせなくなっています。私はアナログの世界で育ちましたが、今はデジタルを知らなければ十分な指導ができません。

こうした試みの一つとして、YouTubeチャンネル「柿内幸夫の現場改善研究所」を続けています。これは全国の現場に向けて私の考えや事例を発信する場になっており、動画を作ることは自分の考えを整理する良い機会にもなっています。

また、若い人たちと一緒に働くことも意識しています。私にとっての「若い人」とは、40代前半くらいの働き盛りの方々です。彼らとは、私が苦手とするテーマを軸に議論したり、一緒に仕事を進めたりしています。普段はコンサルタントとして指導する立場であっても、このときは学ぶ立場に徹して、教えていただくという姿勢で臨んでいます。世代間の違いを受け入れる柔軟さも、今の時代には必要な力だと感じています。

私の仕事の原点は、いつも「現場・現物・現実」です。実際に現場に足を運び、自分の目で確認し、その場でリアルな答えを出す。この姿勢は、時代がどう変わろうとも、変えるつもりはありません。現場で起きていることに正面から向き合い、共に考える。それが私の基本姿勢です。今回はそれを実現するための準備についてお話ししました。

これから新しいことに取り組もうとしている皆さんにも、同じことが言えると思います。どんなに小さな一歩でも、それを確かなものにするためには、しっかりとした準備が必要です。やりたいことを実現するには、体と心を整え、自分の立ち位置を見極め、時代の流れにも柔軟に対応する覚悟が求められます。

挑戦は派手な活動のように思われがちですが、実は「準備」という地味で確かな努力の積み重ねが、それを支えているのです。失敗しないために、あるいは、失敗しても立ち上がれるようにするために、これからも準備を怠らずに歩んでいきましょう。