脱力・カイゼントーク 第91回

言語を変える 3

これまで、社長の言語、そして従業員の言語についてお話をしてきました。最終回となる今回は、コンサルタントである私自身の「言語」についてお話ししたいと思います。

社外のコンサルタントである私の役割は、現場にある問題を解決することと、その会社の「あるべき姿」を提示し、「現状」とのギャップを「問題」と捉えてカイゼンを進めていくことです。すなわち、問題解決と課題達成という2つがテーマです。この役割を果たすには、私がそれらをきちんと説明し、会社の皆さんに納得してもらうことが必要です。そのためには、私の言葉がわかりやすいことが前提で、「言語」が果たすべき役割は大きいと考えています。

前回までにお話ししたように、社長と従業員の間にはしばしば言葉の行き違いが生じます。そこで私は、経営者の意図を現場にわかりやすく伝えると同時に、現場の様々な気付きや思いがきちんと経営者に届くように言葉を選んでお伝えします。片方の発言に対して誤解が生まれないように、必要に応じて言葉を補い、別の言い方を織り交ぜて真意が的確に相手に伝わるようにしています。

例えば、従業員が現場で「この工程はムダだらけだが、自分たちではどうしようもない」と話したとします。その言葉がそのまま社長に伝わってしまうと、「人や何かのせいにして自分ではカイゼンしようとしない」とネガティブに受け取られてしまうこともあります。そこで私は、現場で起きているさまざまな事情を考慮に入れたうえで、「現場の方は、今の工程をより効率化できる方法があると気づかれたようです。一度現場で話し合いませんか?」と言い換えてお伝えします。そうすることで、対立ではなく、共通の目的に向かう協力の言葉に変わっていきます。その上で、関係者と一緒にその工程の問題点を分析し、共有し、カイゼンを始めます。この場合、現場の人たちだけでは難しかった他部署を巻き込む最初のきっかけを作るのがコンサルタントである私の役割であり、これが私の「言語」だと言えます。

「あるべき姿」と「現状」のギャップを「問題」と意識してもらい、カイゼンのテーマとする場合も言葉に気を付けます。現場の方々は日々の業務に追われ、時として現状が当たり前になってしまうことがあります。私はこれまでの経験をもとにカイゼンの実行を提案しますが、その際には押し付けにならない言い方を心がけています。

頭ごなしに「皆さんは気付いていないようですが、この工程は時代遅れであり、全くダメです!」と言われてしまうと、反発する気持ちも生まれ、前に進めません。そこで、言い方を工夫するだけではなく、少しでもいいのでその場で皆であるべき姿に向かうカイゼンを実行してみて、「やはり、この方向のカイゼンは正しいですね。これから皆さんはどんな工夫ができそうでしょうか?」といった投げかけをするようにしています。そうすることで、自ら気付き、考え、動くきっかけになることが多いのです。私の言葉が引き金となって「自分たちでやってみよう」と思っていただけるようになるのが理想です。まず実行して理解してもらった後に、言葉で説明して納得してもらうことをしています。これも私のコンサルタントとしての「言語」です。

そして最後にもう一つ大切なことは、私の言葉が受け入れてもらえることです。どれほど正しいことを言っていても、「この人は私たちのことを理解している味方だ」と思っていただけなければ、言葉は届きません。だからこそ、私は現場に足を運び、現物を前にして、できる限り同じ目線で、お互い気持ちよく前向きに会話できることを大切にしています。

私は社長とも現場の人とも対話を重ねながら、時には緩衝材のような役割を果たし、時には火消し役になります。そうやって少しずつ、お互いの「言語」のズレを調整しながら、全体がひとつの方向に動いていくよう支援することが、私の仕事であり、言葉の使い方だと考えています。

これまで3回にわたって「言語を変える」というテーマでお話ししてきました。言葉は単なるコミュニケーションの道具ではなく、組織を動かし、カイゼンを進める「力」そのものです。だからこそ、それぞれの立場で「伝え方」と「受け止め方」を意識し、丁寧に言葉を選びながら、良いカイゼンを一緒に進めていければと思います。