脱力・カイゼントーク 第88回

カイゼン会に社長が来る意味

私のカイゼン会には、必ず社長や工場トップの方が出席してくださいますが、さまざまなタイプの方がいます。黙って発表を聞き、最後に大きな拍手を送って発表者を元気づけてくださる方もいれば、発表内容に対して鋭い質問を投げかける方もいます。

ある時、非常に細かいところまで熱心に質問をされる社長がいらっしゃいました。発表者がきちんと考えていないと答えられないほど、一つ一つの内容を深掘りしていくのです。丁寧に細かいことまで聞かれるので、私は不思議に思い、後日その社長に尋ねてみました。

「社長、どうしてあそこまで細かいところまで質問されるのですか?」

すると、社長はこう答えました。

「私は常に現場にいるわけではありませんし、自分が作業をやれるわけでもない。だからこそ、現場で何が起きているのか、そのために何をしているのか、実際のところを知る必要があるんです。経営者として現場の実情を知らずに判断するのは、良くないですからね。」

さらに、こんなこともおっしゃいました。

「誰が何をしているのか?どこで課題が起きているのか?そういうことを理解していないと、的確な指示は出せません。だから、分からないことは全部聞くことにしているんですよ。」

私はこの言葉を聞いて、「なるほど!」と思いました。この社長は、単なる知識欲で質問しているのではなく、現場の実態をしっかり把握し、より良い経営判断を下すためだったのです。

そして、質問の締めくくりはたいていこんな感じで締めくくります。

「それが必要だとどうして気付いたの?」
「そうなんだ、じゃあ、ぜひやってみて!」
「来月、結果を教えてくれる?」

これらの言葉には、単なる指示命令ではなく、現場のカイゼン活動を後押ししようという強い思いが感じられるので、発表者も最初は緊張していたものの、社長の真剣さに触れるうちに、カイゼンのレベルを上げています。

一方で、黙って発表を見守り、最後に大きな拍手を送る社長にも、素晴らしい役割があります。こういうタイプの社長は、あえて発表の場で細かく質問はせず、発表者を緊張させず安心感を与えます。発表者は「自分の意見や成果を聞いてもらえた」という充実感を得て、次のカイゼンにも前向きに取り組めます。こうした社長は、現場の雰囲気を大切にしながら、参加者のモチベーションを高める力があります。特に、現場の人たちがまだ発言に慣れていない段階では、「まずは話すことに慣れさせよう」という配慮が、現場の成長を促します。

両タイプの社長に共通しているのは、従業員が実行したカイゼンに対して、経営者として強い関心を示している点です。社長が出席していなかったり、参加していても真剣に聞いていない場合、従業員は「カイゼンという作業」をただやらされていると感じてしまいます。言われたことはこなしますが、自発的に続けようという意欲は生まれません。カイゼンは継続することで成果が出るものですが、単なる作業になってしまったら、その継続は難しくなります。

ここで、私自身の役割についても少し触れたいと思います。私はコンサルタントとして、「このカイゼンがなぜ素晴らしいのか」を伝えることが重要な役割だと考えています。ただ単に「困ったことがあったのでカイゼンして解決しました」というだけでは、次への広がりや深まりは生まれないからです。たとえ最初は問題解決から始まったカイゼンでも、その内容を掘り下げていくと次の課題の解決に繋がることはしばしばあります。

現場の人たちは、目の前の課題に一生懸命取り組んでいますが、成果が出ると「これで終わった」と思いがちです。しかし、「カイゼンに終わりなし」です。できたことを振り返り、「さらに良くする方法はないか?」と考えることで、次のステップが生まれます。

私はカイゼン会の発表会は単に「成果を報告する場」ではなく、「経営と現場の橋渡しの場」だと考えています。

現場のカイゼン活動の中には、目に見える成果だけでなく、日々の小さな気づきや、 カイゼンへの工夫がたくさん詰まっています。これらは、現場の人たちが一生懸命考え、試行錯誤した結果ですが、経営者の目に触れなければ埋もれてしまいます。だからこそ、発表会は現場で生まれた知恵を経営者に届け、経営の意思決定に活かしてもらう貴重な場なのです。

さらに、発表会を通じて現場の人たちも「自分たちの意見を社長が聞いてくれて、思いが経営に届いている」「自分たちの努力が認められている」と実感します。この感覚が現場のやる気を引き出し、次のカイゼンへとつながっていくのです。