脱力・カイゼントーク 第87回

スタッフが現場のことを知る大切さ

先日、自動車部品製造を行うA社で新製品向けの新しいプレス金型の試し打ちがあるということで、その製品の段取り作業から観察する機会がありました。私はストップウォッチを持って、果たして何分で型替えが完了するのか、楽しみにしていました。

型替え作業が始まり、まず既存の金型の取り外しはスムーズに進みました。しかし、次に新しい金型をクレーンで移動するところで作業が止まってしまいました。金型をクレーンで吊るために必要なアイボルトという丸い輪っかに、クレーンのフックがうまく掛からないのです。4つあるうちの3つまでは引っ掛けられたのですが、最後の1つだけがクレーンとアイボルトの位置の関係でどうしても引っ掛けられず、作業が長時間にわたり停滞してしまいました。

原因を調べようと、他の金型についているアイボルトと見比べてみると、新しい金型に使われているアイボルトは明らかに径が小さく、これが原因でクレーンのフックが入らないことがわかりました。技術部の担当者に理由を尋ねると、「実はコストダウンの目的で安価な小型アイボルトを採用しました。サイズ的には問題なく入るはずであったのですがこのような結果になり、現場に迷惑をかけてしまいました」と小さな声で教えてくれました。技術部としては部品代を抑えたつもりでも、現場では作業時間のロスが発生しており、全体として見れば明らかに損失です。このように、生産現場のカイゼンや生産活動を支える技術や設計、資材などのスタッフ部門がその内容をお互いに理解していないまま、それぞれがコストを下げようと個別に動いてしまうと、思わぬところでムダが生じてしまいます。

金属板金加工のB社では、製造部門だけでなく全ての部門が定期的に社内カイゼン発表会に参加します。生産に直接かかわる設計や技術、調達、生産管理、品質管理だけでなく、営業や総務といった間接部門も加わり、それぞれが実行したカイゼンを発表します。これにより、それぞれの現場の課題やその解決策を全社員が共有し、自分たちがどのように他部署に貢献できるかを具体的に考えることができるようになっています。

つい最近も、生産現場から「プレス金型の交換作業時間を短縮したい」という声が上がり、技術部門が製造部門と協力して金型の形状と取り付け金具の設計を見直しました。従来はボルトで固定するために多くの作業が必要でしたが、「ボルトを見たら親の仇(かたき)と思え!」という合言葉でボルト締めでなくワンタッチで固定できる構造に変更し、型替え時間を半分に短縮しました。この取り組みによって、技術部門も生産現場の課題を肌で感じ、以降の設備設計にはさらに多くの現場視点を取り入れるようになったと聞きました。現場と技術が一体となった事例です。

コストダウンは単に部品代を削減するだけでは成り立ちません。A社の事例のように、安価な部品を採用した結果、現場で余計な作業が増えて全体としては損失になってしまうことはよくあるのです。一方、B社のように、設計や生産管理、品質管理、そして営業や総務などの間接部門まで含めて課題を共有し、協力してカイゼン策を打ち出すことで、作業時間の短縮とコスト削減を同時に実現できます。すなわち、お互いの役割を理解し合い、現場とスタッフ部門が一体となって“全体最適”をめざすことこそが、本当の意味でのコストダウンにつながるのです。