脱力・カイゼントーク 第86回

カイゼンネタの発掘

先日ある工場を訪問した際に、工場長から次のような相談を受けました。「実行できるチョコ案をやり尽くしてきて、チョコ案のアイデア出しがだんだん難しくなってきています。残っているものは、チョコっとしたカイゼンではないものが多い気がするのですが、現在、現場でやろうとしているチョコ案についてアドバイスをいただきたいのです」。

実際にそのカイゼンのアイデアの説明を聞いてみると、次の2つでした。

・ 最終検査職場では、これまで1人が計測し、その結果を口頭で読み上げ、もう1人がそれを聞いて検査成績書に記入するという、2人がかりの検査作業を行っていました。それを、パソコンの音声入力機能とエクセルの機能を使って、1人で実行・完結できるようにしたいというカイゼンです。実行には、この職場に新たにパソコンが1台(+マイク)必要ということでした。
・ もう1つは、以前のカイゼン会で流れ作業をスムーズに行うために、作業台の高さを均一化し、スライドレールを置いて横に流しやすくしました。全員の身長差などを考慮して、ちょうどいい高さに設定したのですが、それでも合わない従業員がいるので、必要な人には踏み台のようなものを設置し体のサイズのバラツキを微調整すると、仕事がさらにやりやすくなると分かり、作るものによって位置が変わるので移動式の踏み台を数台設置して欲しいという要望でした。

どちらも少し予算のかかるものでしたが、成果が期待できる素晴らしいアイデアでした。いずれもチョコっとしたアイデアの範疇を超え、複数の人が関わる実践的なカイゼンであり、私は嬉しくなりました。そこで私は、「素晴らしいカイゼンではないですか! アイデアはどんどん良くなっていると思いますが、どこでお困りなのでしょうか?」と聞きました。すると工場長は、「これらは予算と許可が必要なものなので、すぐに実行できるチョコ案ではないと思っているのです」とのお返事でした。

確かに、これはどちらもチョコっとしたアイデアではなく、少しお金がかかっています。しかし、実践的なカイゼンアイデアであり、私は素晴らしいと思いました。そこで私は、「ぜひ、導入する備品や費用対効果などについて計算していただき、効果があるようでしたら実践するように許可をとり進めてみてください」とお伝えしました。

その結果はというと、どちらも予想を超える素晴らしい成果が出ました。

検査成績書作成のような2人がかりの作業は、その職場以外にも数か所あることが分かりました。それらも同様にカイゼンした結果、生産性向上だけでなく、「2人いないとできない」という不便な制約を取り除くことができ、管理も楽になりました。

もう1つの作業姿勢のカイゼンでは、レーンの高さをそろえたことで作業効率は向上していましたが、良くした事で更なる問題点が浮かび上がり、各作業者がさらに向上を目指す上で腰痛や疲労の負担を軽減し、生産性向上に結びつきました。加えて、それまで会社で作った機械設備は変えられないものという思い込みが現場にありましたが、「自分たちで声を出せば変えられる」という経験をすることで、カイゼンに対する判断力も向上しました。

私は工場長にこう申し上げました。「チョコ案の初期は身の回りの不便を解消することから始まりますが、徐々にそれらが解決されて、段々と幅広く職場単位での活動へと変化することは自然であり、おかしくありません。もちろん費用対効果のような考え方が前提ですが、今回のカイゼンはそれにも十分に見合っており、明らかに大きな効果が出ていますので、素晴らしいです!」

チョコ案は、普段からチョコっとしたカイゼンを継続し、アイデアを産む「カイゼンの継続力」を身につけることを目的としています。小さなカイゼンを積み重ねることが目的でしたが、今回の相談は「アイデアがなくなってきた」というものではなく、むしろ「より実践的なカイゼンのアイデアが出ている」という成長の証でした。