脱力・カイゼントーク 第84回

自分で気付けないこと

先日、友人から「柿内君の電話、ちょっとおかしいかも…」と連絡を受けました。彼が私に電話をかけると、一回目は呼び出し音が一度鳴っただけでプツンと切れ、二回目にようやくつながるというのです。実は、私も気になっていたことがありました。電話がかかって来た覚えがないのに着信履歴が急に増えていたのです。ただ、普通に電話に出られることもあったので、呼び出し音の故障ではないし、もしかして耳が遠くなったのかもしれないと少し不安を覚えました。

友人の指摘を受け、試しに自分のスマホへ電話をかけてみると、まさに言われた通りで、一回目は呼び出し音が一度だけ鳴った後すぐに切れ、二回目にようやくつながりました。しかも、一回目の電話の時、私のスマホはまったく鳴らないのです。これまで電話をかけてくれた人は「すぐ切られた」と思い、不快な気持ちになっていたことでしょう。慌てて原因を調べると、寝ている時に呼び出し音で起こされないようにするための「お休みモード」が有効になっていたことが分かりました。すぐに解除し、ようやく安心して使えるようになりました。もし友人が教えてくれなかったら、多くの人に失礼な思いをさせたままであったかもしれません。指摘してくれた友人には、本当に感謝しています。

この出来事をきっかけに、食品会社A社のB工場長から聞いた話を思い出しました。ある日、工場長が現場を歩いていた時、パート従業員のCさんが少し緊張した表情で、「このキャベツは使っても大丈夫でしょうか?」と声をかけてきたそうです。確かに、見た目には気になる部分がありましたが、基準は十分に満たしていて問題なく使えるものでした。そこで工場長は、まずCさんが気づいて声をかけてくれたことに真摯に耳を傾け、その上で「なぜ問題ないのか」を丁寧に説明しました。そして最後に、感謝の気持ちを伝えた上で「こうした情報はとてもありがたいので、これからも遠慮なく知らせてほしい」とお願いしたそうです。

Cさんは、工場で一番上の役職である工場長に声をかけることに、相当な勇気が必要だったはずです。「工場長が指定している良品でも不良品でもなく見えるものを、パートタイマーの私の判断で声をかけていいのかな…」と不安に思ったかもしれません。それでも思い切って伝えたことに対して工場長が真剣に聞いて応えてくれて最後にはお礼まで言ってくれたので、ほっとして嬉しい気持ちになったことでしょう。こうしたやり取りが生まれた背景には、B工場長が日頃から従業員ににこやかに挨拶をしたり、積極的に声をかけたりして、現場の人たちとの垣根を低くしていたことが大きく影響していたのだと思います。

品質問題は、単純に標準化やマニュアルだけで解決できるものではありません。人の感覚やとっさの判断が重要な場面も多くあります。だからこそ、B工場長のように、従業員が気軽に声をかけられる雰囲気を作ることが大切です。

B工場長は、部下からの指摘にも素直に耳を傾ける姿勢を示しましたが、これは簡単なようで意外と難しいことかもしれません。人にはプライドがあり、年齢や役職、専門知識の差があると、下からの意見を素直に受け入れにくいものです。もしCさんが話しかけた際にB工場長が「バカを言うな、これが不良のわけないだろう!」と冷たく対応してしまったら、Cさんに限らず誰も工場長に声をかけなくなるでしょう。その結果、せっかくの品質不良の未然防止能力が機能しなくなってしまうことになります。

一方で、誰もが緊張感なく、無責任に「おかしくないですか?」と言ってくるようになれば、逆に工場長の業務が混乱してしまうでしょう。だからこそ、とても難しい部分もありますが報告には一定の節度が必要です。まずは自分でしっかりと確認し、それでも判断がつかない場合に相談する、という姿勢が求められます。そのためには現場で働く人々に品質に対する基本的な知識を持ってもらう教育訓練も大切です。

この話から分かるのは、「信頼できる相手とのコミュニケーションがいかに大切か」ということです。私が友人にスマホの不具合を指摘してもらえたように、そしてB工場長がCさんから助言を受けられたように、相手に声をかけてもらえる環境があることで、問題を早期に解決し、品質を向上させることができます。それは、日々の何気ない言葉遣いや表情、相手を尊重する姿勢の積み重ねによるものです。より良い結果を生み出すのは、「相手を信頼しつつ、自分の考えや疑問を伝えられる雰囲気」と、「受け止める側の素直な姿勢」の両方があるかどうかだと思います。